劇場公開日 2021年4月2日

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「過渡期の私たちのための」Eggs 選ばれたい私たち 美姫ちゃさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0過渡期の私たちのための

2021年4月5日
PCから投稿

共感、がまん、波立ち、感情解放、調和………といったフェミニン(?)なキーワードが言外に満ちていました。共感力のある観客にならまっすぐ伝わる、わかりやすい物語であるわりに、変化とデリカシーに富み、面白かったです。ラストに「全解決」はないのですが、季節の使い方から感情のぶつけ合い、そして海へ、の流れがとても上手で、観賞直後に私は拍手したくなりました。
キャスティングやカメラワークは完璧ではなかったようですけれど、新人監督さんにしてはかなり頑張った方だと思います。同性愛者が「私のこと差別してるでしょ?」と発言したのは、理に走りすぎた言い方だったかもしれません。主題を直截的に語りすぎです。「私のことキモいと思ってるでしょ? 警戒してるでしょ?」ぐらいがいいのでは?

人間は生物学上はただの動物なので、メスかオスまたは“異常体”のうちのどれかであり、“正常なメス”としての女性は「優秀な遺伝子をもつと思える男性を可能なかぎり厳選してセックスし、子産み・子育てする」ように体が出来ています。そうして、弱肉強食の生存競争内で遺伝子を継ぎ、種族を存続させてゆこうとします。同性愛者や出産拒否女性や扶養力不足の男性が社会の中で「問題あり」と見なされるのは、“獣としては至当”なのです。
しかし、私たち人間は、ほかの哺乳類と比較にならないほど大脳が発達し、「野獣のような喰い合いだけでは生きていたくない。弱者や異常者も、利害対立相手も、一人一人かけがえのない友愛対象として多様性の中で社会の皆から尊重され、すべての人がお互いに圧迫や搾取や支配を受けない、穏健で自由でのびのびとした創造的な世界をつくりたい」という願いを数千年かけて膨らましてきました。
21世紀の今、まだまだ精神性の過渡期です。そんな中、私たちの日本は、女性解放等にかんして先進国ではありません。 「スコットランドで、全女性への生理用品の無料配布を法的に義務づけ」「ドイツでは、生理痛に耐えることが無意味であるとして、妊活中以外の多くの女性がピルでふだん生理を止めている」とかいうニュースを聞くと、わが国は遅れているわと思うし、問題の種類は違いますが「オランダで、売春を合法化、セックスワーカーに労働者としての権利を保障」「オランダをはじめ世界二十カ国以上で同性婚を認めている」といった、日本では考えられない進歩的な動きもあります。一方、生理期間中の女性を「穢れの身」として家屋内から追い出すインドの信じがたい風習や、レイプ・近親相姦の場合でも堕胎を一切認めないことになった米アラバマ州などの法改悪も。世界にはいろいろなことがあります……。
自分自身や他人をどこまでのびのびさせてあげられるか、どこまで優しく扱えるか、ということにもなるかと思います。みんなの苦悩が減るように。そして社会が個々の人間性を圧迫したり選択肢をむりやり狭めたりすることも、減っていくように。
何よりも、私たち人類は、「自然だけれど、おぞましさも多々ある、本能百に近い」動物なのか、それとも「動物を超えた、真に特別に崇高な」何者かになれるのか。その過渡期は、あと何万年も続くかもしれません。待ちきれない気もします。
この映画は、待ちきれない私たちのための、問題提起力を確実にもっています。
ただ、共感力の乏しい観客には、「ちぇっ、女同士でまとまっちゃって。俺たち男だっていろいろつらいんだけどな。映画として下手な部分もあるし」と文句をつけられるおそれも。そのあたりは、例えば「35歳をすぎて非モテ独身で、年齢の壁で転職に苦労している文句たらたらの善良男性」「定職に就こうとせずフニャフニャしてるが女性への配慮のできる若い男性」といった脇キャラを創出して主人公たちの思考にかかわらせたりするような包容力を監督さんが得ていけば、今後さらにこの作風でいい映画を作れると思います。

美姫ちゃ