劇場公開日 2021年10月1日

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「コロナ禍、そしてその後を見据えた映画人の思い」DIVOC-12 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5コロナ禍、そしてその後を見据えた映画人の思い

2021年10月7日
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鑑賞方法:映画館

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難しい

コロナ禍で苦しむ映画業界を盛り上げようと、12人の監督が12本の映画を撮ったオムニバス短編集。
三島有紀子、上田慎一郎、藤井道人の3名がそれぞれチームを組み、3部構成で成り立つ。
DIVOC-12の意味はCOVID-19をひっくり返すという意味。
かなり作風が分かれるため一概に評価出来ないし、それぞれの好みによって各作品の評価やベストも分かれてくると思う。

第一部 三島組 テーマ:共有
①『快眠倶楽部のすすめ』
監督:加藤拓人 主演:前田敦子
主人公が快眠倶楽部なる閉鎖的空間を抜け出し、街へと飛び出す話。
OPに相応しい、静かで現代へ向けたメッセージ的映画。
快眠倶楽部のすすめではなく、快眠倶楽部からの脱出のすすめなのでは?
② 『YEN』
監督:山㟢晋平 主演:蒔田彩珠、中村守里
ポラロイド写真を撮っては“日本円”で人を評価するJK2人の友情の崩壊と修復、そして成長。
カメラワークやアスペクト比の変化など、かなり撮り方を凝っていた印象。
友達の親揶揄は気持ち良くないが、蒔田彩珠と中村守里のペアは最強。この2人で長編を撮って欲しい。
③ 『海にそらごと』
監督:齋藤栄美 主演:中村ゆり、高田万作
少年は、生まれた時から会ったことのない母親に会いに海辺のスナックへ向かう。
そこのママをしている母親(仮)と少年の交流。
波の音と夕焼けと寂れた街に映える、ゆり姉さんの横顔の美しいこと。
夜のネオンをバックに描かれるラストシーンにほろっ。
④『よろこびのうた Ode to Joy』
監督:三島有紀子 主演:富司純子、藤原季節
1人細々と暮らす老婦人。
海岸に倒れていたところを方言強めの青年に助けられ、報酬のためといかにも怪しい仕事を引き受けるが…
少し難しすぎた。正直雰囲気もあまり好みではない。
今回も救世主的な藤原季節さんと、ハーゲンダッツ&ラストの散財シーンが印象的。

第二部 上田組 テーマ:感触
⑤ 『あこがれマガジンハウス』
監督:エバンズ未夜子 主演:小川紗良、横田真悠
作風は一気にメルヘンに。
鏡の中のあなたと私。それはあなたのこと?私のこと?
はじめはよく分からなかったが、夢と現実の違いが分かってからは、女の子の映画として観ることができた。
ドアップの小川紗良さん、透明感えぐい。
⑥ 『魔女のニーナ』
監督:ふくだみゆき 主演:安藤ニコ、おーちゃん
イギリスの魔女見習いが、日本の湖畔に咲く花を求めてやってくるファンタジー×ミュージカル。
日本ではなかなか作られない、この手のファンタジーとミュージカルに手を出した時点で拍手。
ふくだみゆき監督は上田監督の奥さんだそう。
こういう全く傷つかない作品がこの企画に最適だと思うんだが。
⑦ 『死霊軍団 怒りのDIY』
監督:中元雄 主演:清野菜名、高橋文哉
ホームセンターでバイトをする男勝りな空手(カンフー)女子が、工具や機械でゾンビに立ち向かう!
今回2つずば抜けていたうちの一つ。
中身の無さはトップだけど…そうそう、こういうのでいいんだよ。
清野菜名さんのアクションと倒した後の笑顔にやられた。
ゾンビだらけの中、ファミレスでご飯ってのも良い。サイコー!
⑧ 『ユメミの半生』
監督:上田慎一郎 主演:松本穂香、小関裕太
閉館間際のミニシアターにやってきた監督志望の中学生の前に、劇場スタッフのユメミが現れる。
上映までの間、ユメミは波瀾万丈な自身の人生について語り始め…
正真正銘ベスト。
とにかく映画愛に満ち溢れた傑作。
アレによってサイレント映画がトーキーに、アレによってモノクロがカラーになる激アツ展開に、どこかで観たことあるオマージュの連続。
怒りのDIYとともに再鑑賞したい逸品。

第三部 藤井組 テーマ:成長
⑨ 『流民』
監督:志自岐希生 主演:石橋静河
幼少期の自宅の上に立つホテル。
フロントでは「全部同じ部屋だよ」と言われ、自分の部屋を探すが、ドアを開けても開けても自分の部屋が見つからない。
自分には難しかった。非現実的な現実。不思議な世界観。
⑩ 『タイクーン』
監督:林田浩川 主演:小野翔平、窪塚洋介
こりゃまた難解。
tycoonって大君(徳川将軍に対する外国人の呼称)なんだって。これがそうなのか分からないけど。
浦島太郎?高瀬舟?うーん、違う。
舞台は何処になるんだろうか?MV的な雰囲気のある作品だった。
⑪ 『ココ』
監督:廣賢一郎 主演:笠松将
コロナ禍、在日コリアン、望まない妊娠…
社会問題てんこ盛りの最も映画的な作品。
最後のテロップでの後日談まで重い。
笠松将さんと円井わんさんの演技に引き込まれた。
(最初の緊急事態宣言下だったとしても)コロナ禍なのに誰もマスクしてないのは気になったけど。
⑫『名もなき一編・アンナ』
監督:藤井道人 主演:横浜流星
大トリは今、波に乗りまくっている藤井道人監督。
喪失感を抱える男の前に現れた女性との逃避行。
映像美が凄かったけれど、前3作品が静かだったので少しウトウト…もう一回観直したい。
ロン・モンロウっぽいなと思ったらロン・モンロウだった。

どの作品も特徴ある印象的な作品が多かった。
重厚感ある社会派の作品も良いが、withコロナの今はまだ安心して観れる映画の方が良いというのが私の意見。
個人的には上田慎一郎監督チームが良かったが、ここには乗れないと言っている人もいるので、やはり人それぞれということで。
何よりこれをシネコンでやるというのが良き。
因みに私的トップ6は以下の通り
1.『ユメミの半生』
2.『死霊軍団 怒りのDIY』
3.『YEN』
4.『あこがれマガジンハウス』
5.『海にそらごと』
6.『ココ』

唐揚げ