劇場公開日 2022年2月11日

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「すき好みはあると思いますが、平等に描かれていて極めて高評価。」国境の夜想曲 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0すき好みはあると思いますが、平等に描かれていて極めて高評価。

2022年2月11日
PCから投稿

今年37本目(合計310本目/今月(2022年2月度)9本目)。
1時間30分でテアトル梅田さんまで移動して見たのがこちら。

 105分ほどの映画で、分類的には「ドキュメンタリー」になりますが、映画というほどにはびっくりするほど字幕がほぼ出てこず、「字幕が出る部分だけを全部集めても」5分くらいにしかならないのではないか…と思います。大半(というより、95%以上)、音楽とともに流れる、このISIS問題に苦しむ住民たちの悲しさが伝わってくる内容です。
この関係(字幕が大半ない)ことから、「何を述べたいのか、映画の趣旨がわかりにくい」ところも確かにあります。ただ、ISIS問題は今では常識ですし、ISISの被害にあった人、また、「もうどうでもいいから、さっさと安定した生活を送りたい」という人、そういう方に密着して撮られたのだろうと思います。

 さて、ISIS問題に関して、この映画は配慮があります。一般的にISIS問題を描く映画だと、実話ものベースで「ISISをやっつけておしまい」みたいなアクションものが多いのですが、当然、(日本も国として承認はしていませんが)ISISや、極論すれば北朝鮮等にも「言い分」はあるわけであって、この「言い分」についても一定の配慮が見られます。
つまり、今のISIS問題や、そもそもパレスチナ問題や、中東の混沌とした状況を作り上げたのは、もとはといえば、20世紀初頭のイギリスの「サイクス・ピコ協定」ですが、条約や国名こそ出ないものの、「本映画は、近現代にヨーロッパが結んだ条約によってもたらされた、パレスチナや中東の悲劇を描く映画」という趣旨のことが出ます。さすがに「サイクス・ピコ協定」まで出して「イギリス叩き」をするのは変な話ですが(それもそれで趣旨違いとは言える)、ISISも「国だ」と主張したのも元はといえば「サイクス・ピコ協定」なのであり、この問題を語るにあたっては、ISIS問題は外せないのです。これをはずしてしまうと、日本でのISIS問題の報道が、アメリカの主張寄りになっていたため、「ISISはけしからん」ということになり、一歩間違えると「イスラム教は危ない宗教だ」ということになりかねないからです。

 しかし、程度を超えると問題になるとはいえ、ISISがなぜ「国だ」と主張してここまでモメたのか(あるいは、今でも解決しないパレスチナ問題)は、結局全部、イギリスの責任になりますので(いわゆる「二枚舌/三枚舌外交」と呼ばれるもの)、それをもって「イギリスを叩く映画」にするのは変ですが、史実としてはそうですので、イギリスのこの問題について軽くでも触れたこの映画は極めて評価は高いです。

 一方、ドキュメンタリー映画という事情と、「本当に字幕が少ない」という事情はどうしてもあるので(字幕にいたっては、全部かき集めても5分にも満たない?)、下手をすると「イラン・イラク、当時のISISの戦闘を見るだけの映画」という評価にもなりかねないのが残念なところです。また、ISISを取り巻くこの戦争は、色々な民族や宗教が絡んだ複雑な戦争ですが(少数民族なども迫害されている)、およそ高校世界史で習わないようなマニアックな字幕も出る等、かなり本格派です。ただ、パンフレットが700円と比較的良心的なので、そこまでは気にならないかな…というところです(ISIS問題は正直、全部が全部、完全に説明して完全に平等に描こうとすると、本当に5時間コースになる)。

 採点にあたっては、下記を考慮しました。

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 (加点2.0) ISISを扱った映画(ないし、この映画でもちらっと出る、パレスチナ問題)はよくありますが、元となったイギリスの諸問題(サイクス・ピコ協定)には触れない映画も多いです。ただ、この映画は固有名詞こそ出ないものの「西洋が結んだ条約にイスラエルや中東は翻弄され…」と出ることから「事実上出ている」と評価でき、この点において、「ISISの言い分」も理解できる作りになっていた点、ここは高く評価しました。

 ※ 要は「平等に描く」ことが大切なのであり、この手の映画で、その都度(ユダヤ人問題、イスラエル、ISIS等)、イギリス叩きをするのも変な話ですが(ストーリーが支離滅裂になる)、「何も出さない」映画が多い中で、ちゃんと「固有名詞こそ出していないが、事実上出ている」という点に着目しての「平等原則」に照らしての加算です。

 (減点0.4) 映画内では事実上、内戦状態にあったISISを中心とする国を舞台に描かれます。このため、英語は一切でない(上記の「ヨーロッパの近現代の条約~」は冒頭に英語で出ます)一方、舞台の大半はアラビア諸国なため、看板等も全てアラビア語なのですが、この翻訳が大半ないため、やや翻訳不足かな…という気はしました(とはいえ、あの荒れた街中の落書きなんて、どうせ翻訳しても「イスラム教を信仰しましょう!」とか「コーラン(クルアーン)は毎日読みましょう!」とか、ISISよりな「いたずら書き」しか書いていないと解するのが妥当)。

 この点に関しては、「字幕少なめ、映像でみせるタイプの映画だからこそ」の減点対象なのであり、通常の映画ではこれ(字幕の翻訳不足)は0.1程度ですが、「いかんせん、字幕が大半ない映画」という事情を考慮してのものです。

yukispica