劇場公開日 2021年2月27日

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「[序章]こんな常識があった。それは意外にも意外ではない。」DAU. ナターシャ スカポンタン・バイクさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0[序章]こんな常識があった。それは意外にも意外ではない。

2022年1月23日
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鑑賞方法:DVD/BD

笑える

怖い

難しい

まず、私は本作に高評価を出すわけですが、本作の星評価の低さを、私は意外には思わないです。私は本作へのスタンスを「意欲作」として捉える事にしたため高評価ですが、この映画に対して不快感・嫌悪感を覚えて評価が低くなるというのは、ある意味当然だと思います。私自身、不快な映画であった事は確かです。しかし、その不快さにこそ価値があるという事もあるんです。それはつまり、この映画が真に全体主義社会の狂気を映している、いや映してしまったからこその功績だと思います。そして、これは少しも過去の話ではなく、今この現代にセットとして再現され、見事に本当と言って差し支えない全体主義社会を構築するに至ったのです。
この映画は存在そのものが狂気と言えます。
こんな世界を2度と生み出してはいけないんです。

本作は、ナターシャという主人公の視点でソ連を体感するというミニマルな内容になっています。それ故に、観客は最初から最後まで現代と比べた時の違和感と多様性の弾圧を味わう事になります。何より恐ろしい事は、そんな街にいつのまにか順応し、許容する彼女を垣間見てしまうという事です。これは少しも他人事ではなく、国家規模だからこその話でもない、私たちの日常レベルにでさえ存在する、協調性に隠れた罠なのです。

みんなが協力する、仲良くするというのは勿論人間が生きる上で大切な事なわけですが、もし誤りがあった時、それに間違ってると言ってくれる人がいなければ、全員が間違ったまま進行してしまう。だからこそ、少数意見だとしても尊重される必要はあり、それこそ真の民主主義の魅力だと思うんです。

最後になりますが、本作は全体主義社会の弱点というのを体感するという点で非常に優れた作品と言えると思います。「百聞は一見にしかず」ということで、本や歴史からだけでは感じられない狂気の正体を知ることができることでしょう。
そして、何が恐ろしいって、これは序章という事です。続編に「DAU.退行」があり、上映時間6時間超えの超大作。私は映画館に行けなかった事を今心底後悔してます。DVDが出たら、心底すぐ観たい映画の1つですね。

では、以上。「DAU.ナターシャ」の感想でした。

スカポンタン・バイク