劇場公開日 2020年6月26日

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「カントリーを全然知らなくても、絶対ナッシュヴィルに行きたくなる作品。」ワイルド・ローズ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カントリーを全然知らなくても、絶対ナッシュヴィルに行きたくなる作品。

2020年8月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ローズ=リン役の方、どこかで観たことがあると思っていたら、鑑賞後に『ジュディ』でコーディネーター役を演じていたジェシー・バックリーと知り、なんで気が付かなかったんだろう、と悔しくなると同時に、あんなに「おしん」のように耐え忍んだ反動で、今度は人を振り回す側に回っちゃったんだろうかねぇ、と虚実入り交じった感慨に勝手にふけって、涙を禁じ得ないのであった…。

『ボヘミアン・ラプソディ』を始めとした、実在のアーティストの伝記映画が陸続と公開されている状況で、創作の音楽映画(ローズ=リンのモデルになった歌手はいるそうだけど)を作るというのはなかなかな挑戦では…、と思いつつ鑑賞しました。

冒頭からローズ=リンの無軌道ぶりにちょっと狼狽。観客に共感させる意図はないのか、と思ったりもしたけど、これは自分が正しいと思ってる社会的規範を押し付けてるだけだよね、と反省し、ローズ=リンの姿をしばらく追ってみることに。すると彼女の、子供達と上手く接したいけどできない、意図せず周囲を振り回してしまう…、という苦悩が透けて見えて、一気に応援したくなりました。

ジェシー・バックリーの歌唱が見事で、その力強い歌声は、ローズ=リンが類いまれなる才能と魅力を備えている、という設定に説得力を与えています。富豪の妻や音楽プロデューサーがちょっとローズ=リンに肩入れしすぎでは…、と思うけど、自力でデビューまでこぎ着けたので、全く問題なし!

彼女が意気込んで訪れた憧れの場所で、有頂天になりすぎて完全に観光客になっちゃう姿は、微笑ましいと同時に、それまでの傍若無人、尊大な自己認識が穏やかに落ち着いた過程を示していていると理解しました。ここでの聞かせる静かな歌声は非常に感動的。

ともすれば天才アーティストの物語は、「栄光をつかむためには何かをあきらめなければならない」というテーマに落ち着きがちですが(『ラ・ラ・ランド』[2016]はその典型の一つ)、本作は「何一つ捨てなくても、理想は実現できる」と強く訴えかけています。

『アルプススタンドのはしの方』と同様、「仕方ない」じゃあきらめきれない人のための映画です!

yui