劇場公開日 2020年1月10日

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「ジャズに浸って楽しむ映画」マザーレス・ブルックリン つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ジャズに浸って楽しむ映画

2024年1月12日
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鑑賞方法:映画館

友人であり、恩人であり、ボスでもあるフランクの死の真相を追うライオネル。残されたのはわずかな手がかり。事件を追ううちに街を支配する黒幕の影が朧気に浮かび上がってくる。

こんな直球のハードボイルドでありながら、全編に流れるジャズがクラシカルさとモダンさを上品に融合させつつ、リラックスしたムードでの鑑賞に一役買っている。

ライオネルがトゥレット症候群による汚言症と抜群の記憶力を持っているせいもあって、映画は言葉の洪水だ。メモを取らなきゃ理解が追いつかないほどの情報の波に揺られ、ともすれば溺れてしまってもおかしくない。
そこへ常に流れ続ける音楽が軽やかなリラックス効果をもたらし、「まあまあ、肩の力を抜きなよ」「犯人探しはライオネルに任せて、ヤツの頑張りを見守れば良いよ」と囁かれているかのようだ。

主演のエドワード・ノートンを筆頭に、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォーと渋目の豪華キャストな所も良い。
私個人としては「処刑人」で初めてデフォーを観た時から大好きで、何を演じても説得力のあるキャラクター造形にいつもメロメロだ。
貧乏臭い風貌でも、胡散臭い風体でも、高潔さを感じられるあの雰囲気がたまらない。

もう一人のキーパーソンであるアレック・ボールドウィン演じるモーは、初登場時ずっと後ろ姿なのだが、体格や仕草や歩き方がパワフルで尊大さに満ちていて、生命体としての強さが伝わってくる。
お年を召してからのアレック・ボールドウィンには威厳を感じる。体格のせいもあるのだろうが、貫禄も充分、見応えも充分。
予告編にも使われていたけど、「影武者」のオマージュのような、モーの影が街灯に浮かび上がり、徐々に大きくなっていくショットが、モーの力の強さを表している。

監督・脚本も務めるノートンは「トランプが大統領になった今、映画と現実がリンクする最高のタイミング」と語っていたが、作品の中で描かれる強者と弱者の物語を表現するのにこれ以上のキャスティングは無いだろう。

強者には強者の理屈と理論があり、強者にしか成せない事柄がある。強いからこそ邁進できる仕事があり、強いからこそ痛みを無視できる。
しかし、少し視線をずらしてみれば、弱者にも色々な個性があり、それは必ずしも弱点ではない。もっと言えば、弱者にしかない美しいものを、弱肉強食の世界は永遠に失ってしまう。

弱いからこそ目を向けられるもの。弱いなかにもさりげなく光るもの。弱いものが集まって生み出す美しいもの。
「強くあれ」と強制される世の中には、見落としている価値がある。

作品全体に漂うクラシカルな雰囲気と、いぶし銀の演技、緻密なストーリーをジャズを聴きながら楽しめる。完全に大人の贅沢な映画。
躍起になってストーリーを追ったりせず、リラックスして楽しむべし。

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つとみ