劇場公開日 2020年1月25日

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「「暴力の連鎖を止めたいと願うすべての人へ」」プリズン・サークル andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「暴力の連鎖を止めたいと願うすべての人へ」

2020年6月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

犯した罪とどう向き合うのか。
舞台は「島根あさひ社会復帰促進センター」、所謂PFI方式の刑務所である。
刑務所といったときに想像する無機質さと過剰にも見える規律は勿論存在する。現代的な施設及び無人で運ばれる食事などを見たときに、現代の無機質さを少し重ね合わせてしまう。
ただ、本作の主題はそこではない(が、刑務所の無機質な映像には含意を感じる)。TC(セラピューティック・コミュニティ、日本語では回復共同体)とそれにそれに取り組む受刑者たちの姿である。監督のインタビューを拝見すると、撮影にはかなり厳しい制約が伴ったようだが(作品中にもそれを示唆する文言がある)、TCという取り組みを伝えようとするその気概が伝わってくる。
取り上げられる受刑者たちは、私たちが「犯罪者」に抱くイメージとは異なる。彼等は悪の権化ではない。生育歴や生活の困難さから、遵法精神がどこか希薄になり、自己と向き合えず、視野を狭め、暴力や詐欺、窃盗をはたらく者たち。恐らくどこかで一歩道を踏み外せば私だってこうなっていた、と思わせる何かがある。そして、犯した罪とうまく向き合えず、「自分」を思ってしまい葛藤する。
教育で求められるのは自分と、罪と向き合うこと。徹底的なまでの自己開示。矛盾する感情との対話。
人と人が分かり合うのは、普通に考えるより圧倒的に困難だ。だからこそ、この社会は罪を犯した者たちを徹底的に糾弾し排除する方向に進んできた。自分たちに分からないものは「ないもの」とする。
映画に取り上げられた4名の受刑者のひとりに非常な共感を覚えた。私もそういう思いになったことがあると思った。私が彼にならなかったのは、ほんの少しの違いでしかない。
罪を犯した者たちが己の罪と向き合って一歩を踏み出すことは、市井に生きる我々にとっても重要なことだ。分かり合うことが難しいからこそ、分かろうとする、向き合おうとする努力は絶対に怠ってはならない。
そして、出所者たちの現状。再入率が他の刑務所と比べて半分というデータが最後に提示されるものの、やはりそこには厳しさも垣間見える。しかし、「仲間」が居るだけ彼等はまだ良いのかもしれないが...。
ラストに示される「暴力の連鎖を止めたいと願うすべての人へ」が全てだと思う。皆が考えるべきこと、向き合うべきこと。

andhyphen