劇場公開日 2020年9月11日

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「強さと弱さと熱狂」れいわ一揆 andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5強さと弱さと熱狂

2019年11月3日
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鑑賞方法:映画館

東京国際映画祭にて。ワールド・プレミア、オールナイト上映。

実のところ、私はれいわ新撰組の支持者ではない。単純に原一男監督の最新作を観に来ただけ、なのだが、会場のどれだけがそういう人だったのか分からない。
れいわ新撰組の政策には合意するところも多々あると思っている。だからこそ自分の思考が難しい。なぜこの党を単純に支持できないのか、ぐるぐる考えながらの観賞であった。
映画としては、一応安冨歩氏を主役に据えながらも、参議院選挙に立候補したれいわ新撰組の候補者たちの活動を追っていく一種の群像劇だ。前半はそれが混沌としており、観ているとかなり苦しい。多分支持者には爽快だが、安冨先生の抗議スタイル、あの理屈で押していくタイプ私駄目なのだ。昔の自分を鏡で見ているというか...まあ比べたらおこがましいのだが、ああいう詰め方は結局誰もいい気がしない気がしてならない。
前半はやはり選挙戦自体が前半だからか、候補者の皆の意気軒昂な部分に押されてしまった。感情に訴えかけるのは重要な戦略だ。断定的物言い、個人の経験。分かる。分かるのに何故私はこんなに苦しいのだろう。心から「しんどい」と思った。
何故なのかよく分からないのだが、おそらく私は争いごとっていうのが駄目なのだ。選挙も闘いだ。前半は闘いがものすごく出ている気がする。剥き出しをそのまま見せているかのようだ。だからその形は多分よくて、観ている私が打たれ弱過ぎるのだ。「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者を叩く」と口ずさんでいる自分がいた。情けない話だ。
それに比して後半は映画として圧倒的に洗練されていく。銀座での自民党との遭遇、謎の警察を名乗る者から入り、安冨先生の遊説、これが良い。嘘か真か「映画の為に美しい場所を選んだ」的なことを話されていたが、それは明らかに成功している。後半の方が何故かひどく落ち着いているのだ。緩急が効いている。
ひとつはおそらくスタッフが増えたことにあるのだろう。カットが前半より映画的だ。また、抑揚が効いている。淡々と訴える、歩く、語る、叫ぶ。選挙活動自体が落ち着いたのかよく分からないが、前半に比べて「引き」が効いているのだ。だから彼らの話も素直に入ってきた。
彼らの訴えには首肯できる部分とできない部分があり、それは今ここで明確に言葉にして表現するのが難しい。記号的社会も、立場主義も分りながらも、「つながり」は怖いとも思う。過度なつながりへの恐れが今の社会である気がする。だからつながりを求めるのは理解できるのだけれど、それだけなのか?ずっと考えたが上手く言葉が紡ぎ出せない。
山本太郎という人は私が思っている以上に戦略家だった。彼は戦い方をきちんと知っていた。言葉も巧みだ。正直、それが少し怖くもあった。何事にも不安を見出しがちなのである。しかし、次は今回と同じ闘い方はできないだろう。10人だったから大きな物語を(言い方は悪いが)ゆるりと共有し、それぞれの個性で訴えることができた。100人ではこの戦術を使いこなせないだろう。今後を見つめていくしかない。
原監督は「怒り」を重要な源と捉えているようだ。それは首肯できる。しかしまたこうも思う。「怒り続けていると、怒り疲れてしまう」...だから人は難しいのだ。
そしてあの連帯、映画で見つめ続けた連帯が、怒りが、きちんと制御されていくのだろうか。制御されることはよくないことなのだろうか。
分からない。そして私は弱い。

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