劇場公開日 2019年10月18日

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「スラムドッグ♪ラッパー」ガリーボーイ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0スラムドッグ♪ラッパー

2020年1月18日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

興奮

幸せ

インド版『8Mile』と言ってしまえばそれまで。
が、ただそれだけには収まらない魅力に包まれた、ボリウッド・ラップ・ムービー!

インドのラッパー、Naezyの軌跡と半生がモデル。
無論、名前を聞いた事も存在すら知らなかったレベル。知ってたら相当なインド・カルチャー通!(…いや、ラップ好きの間では有名なのかもしれないが)
そもそも、インドのラップってどんなもん…? こちらも見た事も聞いた事も無い。
ご安心なく。ラップ文化は万国共通!

劇中披露されるラップ曲の数々は胸躍る。
ラップと言えば、ラップ・バトル。この醍醐味も勿論!
主人公の心の声を代弁し、時に熱く、時に胸に突き刺さるほど、魅力的で聞き入ってしまう。
インド映画と言えば、アクションあり笑いありラブあり歌あり踊りありのコテッコテのエンタメ。
が、本作は非常にリアルなタッチの物語。
主人公の青年のサクセスと青春物語であり、恋人とのラブストーリーであり、家族や生活やインド社会を描いたドラマであり、そして何より熱いラップ・ムービーなのである。

話もミュージシャン伝記の王道スタイルで、スッと入っていける。
スラム街で生まれ育った大学生のムラド。
医者を目指す裕福な家の娘サフィナと付き合いながらも、悪友たちとつるむ毎日。
家は貧しく、高圧的な父のせいで常に険悪ムード。
そんなある日大学で、ラッパーのMCシェールのパフォーマンスを見て魅了され…。

悪友とつるんで悪さをしたりするも、ちゃんと大学に通い怪我した父に代わり働いたりと、真面目なムラド。初めてのラップ・バトルでは相手に言い返す度胸も無いほど。
元々ラップ好きであったが、その才能が花開く時が。
自身の境遇や鬱憤をぶつけた歌詞をラップにしてシェールに歌って欲しいと頼んだ所、「自分の言葉は自分で歌え」。
かくして歌う事になったムラドのラップは、一躍注目を浴びる事になる。
ラッパー名は、“ガリーボーイ(路地裏生まれ)”。

勉学、就職、そしてラップと三足の草鞋を履くムラド。
が、父はそれを許さない。運転手である“使用人”の父は「身の丈に合った夢を見ろ」。つまり、使用人の息子は一生、使用人のまま…。
ラップの実力はメキメキ上がり、アメリカで音楽を学んだ女性ミュージシャンから目を掛けられる事に。彼女のプロデュースでラップ作りをしていく上で親密になり、サフィナとぎくしゃくした関係に。そして破局…。

ある才能が花開くと、運命の悪戯か、障害が立ち塞がる。
やがてムラドはラップ一本で生きていく事を決意。が…
そんなにラップは恥ずべき事なのか…?
厳しい学歴社会のインドではそうなのかもしれない。
いや、日本だって。真面目に勉学に励んでいた我が子が突然、ラッパーになりたいと言ったら、簡単に賛同は出来ないだろう。
が、自分にしか出来ない訴え、自分がやりたい夢がある。
ムラドのラップの才能は埋もれさせる事は出来ないほど。

ムラド役のランビール・シンはその熱演と見事なラップもさることながら、イケメンっぷりも必見。
ムラドのラップの才能を花開かせたMCシェール役のシッダーント・チャトゥルベーディーが最高にナイス助演!
インド映画あるあると言えば、インドの女優さんは美人。本作でも、恋人サフィナ役のアーリアー・バットの美貌が映えるが、それ以上に、ただお飾りの恋人ではなく、自立心があり芯の強い女性として描かれている点。
それもその筈。監督のゾーアー・アクタルは女性監督。
女性の描かれ方は勿論、繊細さと心のこもった描写と演出と作風は、日本で言ったら西川美和監督のような才ある存在なのだろう。

変える事の出来ないガリーボーイ(路地裏生まれ)。
が、自分の人生は変える事が出来る。
自分に価値など無い事は無い!
俺の時代が来る。
どんなに大言壮語で、高慢で自惚れと思われたって構わない。
それほどの度胸、自信、強く逞しく生きていく。
自分の全てをラップに乗せて。
歌え、ガリーボーイ!

近大