劇場公開日 2020年8月21日

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「中島みゆきの糸が好きな人が集まって映画まで作っちゃった」糸 とびこがれさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0中島みゆきの糸が好きな人が集まって映画まで作っちゃった

2023年4月15日
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鑑賞方法:VOD

幸せ

 世の中たくさんの夫婦がいて、そのどれもがたった一人の伴侶を見つけています。けれど出会いは、家が近かったとか職場が同じだったとかです。別の仕事してたら顔も知らなかったかも知れない相手を、運命の相手だと言って結婚したりしますよね。
 菅田のお嫁さんは癌で亡くなりました。病死されなければ離婚することはなかったでしょう。その場合逢うべき人に逢えない運命となるのでしょうか。
 菅田のお嫁さんは10年付き合った元彼に想いが残っているような発言もありましたね。
 この映画では、13歳で惹かれあった時から2人は運命の糸で結ばれていました。
 けれどそれは、別々の道を行く人生が不幸だということにはなりません。菅田はお嫁さんと娘を愛していましたし、小松がシンガポールでネイリストとして成長していく時に感じた充実と幸せは本物でした。そのままそれぞれの道が順調なら、2人ともちゃんと幸せだったのでしょう。
 13歳の時に運命で内から強く惹かれあった日の情動は、懐かしさと共に2人を内側から暖めてくれるものであれ、あの人といればよかったと後悔するような、今を間違いルートにしてしまうようなものでは断じてなかったでしょう。
 友達の結婚式で久々に言葉を交わし、その後別れた時に何故かそれぞれが強い悲しみに襲われます。けれど、具体的にアプローチしようという考えは少しもありませんでした。
 人生はなるようにしかならない。最後2人が逢うべき人に逢う函館の埠頭のシーン。2人は自分の意志で再開したように見えますが、2人ともそうせざるを得なかった行動でしかなかったんでしょうね。
 人生は一人ではなく、多数の人と社会を形成して生きています。だから、人生の線路は自分の気分でいきなり行き先を変更できるものではなく、進みだしたらある程度は勝手に進みます。10人と関わって生きるなら、自分の線路の行き先を決定する権利は10分の1ですから。いきなり放り投げたりはできません。
 けれど、退職や卒業、離婚等で、ある線路からフッと降りて、一人ふらふらとできるタイミングというのがありますよね。最後2人ともがそういうタイミングで、また2人とも、相手もそうなのだと知ります。
 中島みゆきの糸という曲が大好きな人たちが集まって、曲のよさを分かち合ううちに映画まで作ってしまったんでしょうね。伝わってきましたよ。ほんといい曲です。

とびこがれ