劇場公開日 2019年6月29日

  • 予告編を見る

「いきすぎた資本主義と開発競争の果てに」シード 生命の糧 REXさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0いきすぎた資本主義と開発競争の果てに

2024年1月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

遺伝子組み替え作物を食べるとどうなるのかというより、種の多様性の喪失に焦点を当てた作品。

バイオ化学メーカー『モンサント』(今はバイエル)など大手が改変した種は、なんと、豚などの別の生命の遺伝子が使われているという。

南米や第三国の国々の農家は大手のセールスマンに騙されて、在来種の種と引き替えに育ちやすいGMOに手を出すが、それは罠で、メーカーに特許があるため種を採取することはできず、永遠に種を買わざるを得なくなる。そして作物が病気にならないよう、農薬も買わざるを得ない。企業は各国で政治献金も怠らず、種子の特許が受理されるよう手を回す。この利権の構造たるや。農薬の飛散により、薬害で苦しむハワイの人々の実状や土壌汚染も描かれていました。

この状況に危機を抱き、原種を守ろうとする世界各地の人々の活動に胸を打たれました。
世界各地の種子バンクは『ノアの箱船』そのもの。
(しかし戦争や紛争で、この種子バンクを攻撃するということも起きていたという事実に、愕然としました。民族の口にする物を根絶やしにしかねない恐ろしい行為!)

種の多様性が重要なのは、そもそもその種の絶滅を防ぐことと、一品種の作付けだと病気による全滅リスクが高まること、鳥の糞などで在来種を脅かし、生態系にも影響するから。

アイルランドのジャガイモ飢饉は、100万人もの餓死者を出し民族離散をもたらしましたが、ほぼ一品種のジャガイモしか育てておらず、それが病気になり不作になったことが原因。日本でもかつて大根は800種類ありましたが、今や都市部で流通してるのはほぼ青首大根だけではないでしょうか。

制約により自由な販売や製造ができなくなったのは、野菜だけではありません。日本では1971年に「塩業近代化臨時措置法」が成立し塩田が撤廃。

海外の塩をわざわざ輸入して日本で天日干しして国内製造として販売している時期がありました。現在もコストの面で、伯方の塩は中身はメキシコ産です。
このように複雑に利権が絡み合った不思議な世界に、私たちは生きているのだなと。

いきすぎた資本主義は生物のあり方も変えてしまいます。

果たして遺伝子組み替え作物を食べ続けた人類の数百年後はどのようになってるでしょうか。現在は壮大な人体実験のさなかにいるのだと思います。

REX