劇場公開日 2020年1月10日

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「物語部分が薄味。バックボーン説明してよ」ティーンスピリット うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5物語部分が薄味。バックボーン説明してよ

2022年12月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ティーンスピリットという架空の番組を通じて、成長し輝いていく主人公の姿を追ったサクセスストーリー。エル・ファニング自身が成長途上の若手女優で、まだ確固たる評価をものにしていないだけに、はまり役と言っていい。むしろ彼女の頑張りを、演出で生かし切れていない印象が強い。吹き替えじゃないとすれば歌唱力だけでもものすごい実力がある。ストーリーもいたってシンプルで、この内容で失敗するほうが難しいと思うのだが、いろいろと残念な失敗が目に付く。

その最大の失敗が、師匠であるブラドと、ヴァイオレットの出会いと絆の描き込みの弱さ。ふたりの俳優の相性も最悪と言っていい。元有名オペラ歌手というなら、その片鱗ぐらいは見せてほしかったし、主人公の危機を救うほどの強いリーダーシップもなかった。たまたま少女の横に居合わせただけの存在にしか見えない。

誰もが共感できるストーリーにするなら、もっと少女の日常を分かりやすくみじめに描けばいいのに、適当に断片的に農場で馬の世話をしたり、野原に寝転んで音楽に浸ったり、「自分はまだ何物でもない」状態を象徴的に映しているだけ。退屈なクリップをずっと見せられている展開が延々続く。

そこに分かりやすい堕落と妥協、誘惑が押し寄せ、それに負けそうになる様子が描かれるが、どれも弱い。例えば契約さえとってしまえば奴隷同然にスターの卵を食い物に商売していく悪辣プロデューサーのような、強烈なキャラクターも出てこないし、主人公が進むべき正しい道筋もはっきりしない。

家族に回帰していく映画なら、名声よりも愛に生きる道をとる生き方が共感を呼ぶし、成功して大衆に愛されるアイドル誕生のサクセスストーリーならもっと大きなステージで輝く彼女をクライマックスに持ってくるはずで、オーディション番組で勝ち残るストーリーだけでは何とも弱い。

そして、すでにそんな番組は今までさんざん見てきたし、番組の中で何人もの少女たちが羽ばたいていくのだ。なぜ、彼女が特別なのかを丁寧に証明する義務があり、それができていない以上、この映画は失敗と言わざるを得ない。

2020.1.14

うそつきカモメ