彼らは生きていた

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彼らは生きていた

解説

「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督が、第1次世界大戦の記録映像を再構築して製作したドキュメンタリー。第1次世界大戦の終戦から100年を迎えた2018年に、イギリスで行われた芸術プログラム「14-18NOW」と帝国戦争博物館の共同制作により、帝国戦争博物館に保存されていた記録映像を再構築して1本のドキュメンタリー映画として完成。2200時間以上あるモノクロ、無音、経年劣化が激しく不鮮明だった100年前の記録映像にを修復・着色するなどし、BBCが保有していた退役軍人たちのインタビューなどから、音声や効果音も追加した。過酷な戦場風景のほか、食事や休息などを取る日常の兵士たちの姿も写し出し、死と隣り合わせの戦場の中で生きた人々の人間性を浮かび上がらせていく。

2018年製作/99分/R15+/イギリス
原題:They Shall Not Grow Old
配給:アンプラグド
劇場公開日:2020年1月25日

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映画レビュー

4.0音と映像。映画の2大要素はどう相互に作用するのか

2020年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

個人的にモノクロだった映像や写真をカラーに復元するのが好きではない。モノクロにはモノクロの真実があると思うので。AIによって色を判定してカラーにする技術がもてはやされいるのだが、人間が目撃した真実をAIが判定するというのはどうなのか。しかし、本作のカラーの使い方は上手い。どこをモノクロで見せて、どこをカラーで見せるのか。そこに当時生きた人々の思いや熱量を乗せていた。音声にも注目しないといけない。読唇術のプロを起用して彼らが何を話していたのかを読み取りアフレコしており、さらに環境音なども追加している。臨場感は格段に向上している、だがそのまま全てそれを真実を思うべきでもないのだろう。我々は戦争を映像越しにしか体験したことがない。そんな我々にとって、クリアな音声とクリアなカラーによって蘇った映像は、「リアル」だと感じさせる。しかし、「リアル」とはなんだろうか。
この演出に説得力を与えるのは膨大な兵士の音声インタビューだ。これがないと本作の真実性を担保できなかったかもしれない。映像だけでは足りなかった、音だけでも足りなかっただろう。音と映像どちらが主でも従でもなく、対等な関係を保っている作品だったことが本作の成功要因ではないだろうか。

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杉本穂高

4.0100年前の生の証言からわれわれは何を読み取れるか?

2020年3月23日
PCから投稿

1910年代の記録映像を加工し、カラーにしてコマを補完して、唇の動きをもとにアフレコをして、効果音で戦場の音を再現する。「これはドキュメンタリーなのか?」という議論は起きてしかるべきだし、戦争というテーマを離れて、映像とリアルの関係性について考えるいい機会になっていると思う。

とはいアフレコされた音声が作品としての方向性を決定づけているわけではなく、本当に第一大戦に従軍した元兵士たちの膨大な証言がベースになっていて、その点では間違いなくオーラル・ヒストリー・ドキュメンタリーになっている。

非常に印象に残っているのが、国家的高揚と戦場の現実との対比と、前線の状況を受け入れるしかない兵士たちの無常観にも似た境地。映像技術が成し遂げたことも凄いが、やはり、生の証言を積み重ねることで(もちろん演出意図によって再構成されているが)生まれる重みにこそ、本作の真価が宿っている気がしている。そしてひとつひとつの証言の意味が、見方を変えることで百通りに違ってくる非常に多層的な作品である。

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村山章

4.0彼らの笑顔が忘れられない

2020年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

最も衝撃を受け印象に残ったのは、カメラを向けられた前線の兵士たちの“笑顔”だ。訓練中の新兵や、後方部隊の兵士たちならまだわかる。だが、前線で仲間の死を目の当たりにし、塹壕の劣悪な環境に耐え、明日の運命も知れぬ彼らが一様に、カメラに向かって笑いかけるのだ。1910年代、まだ映像用カメラでの撮影が珍しく、被写体になる照れくささもあるだろう。それでもなお、彼らの笑みは意外だったし、極限状況での人間の強さのようなものを感じさせもした。

ピーター・ジャクソンが優秀なチームと最先端の技術を駆使し、色と音を加えて“蘇生”させた100年前の映像は、戦場のリアルを間近に体感させるのと同時に、たとえば前線の兵士は憔悴や悲痛の表情を浮かべているはず、といったような先入観を打ち砕く。あの笑顔の奥で、彼らは何を感じ、何を願っていたのか。技術が記録映像に命を吹き込むことができることを証明する好例だ。

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高森 郁哉

4.5PJはまたしても映画の革命を起こしてくれた

2020年1月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『指輪物語』を手がけた巨匠がどんな作品を手がけるのか。それは世界中の関心事なはず。その点、ピーター・ジャクソンは「伝えるべき内容」と「伝えるための技術」の相性が絶妙にマッチした題材を、観る側が全く予想もしなかった角度で提示してくれた。モノクロ映像の本編にやがて色味がついた瞬間の「あっ」と声を出してしまいそうなほどの衝撃。被写体となった兵士一人一人の表情が克明に胸の中へ流れ込んできて、これまでの戦争映画では感じたことのないザワザワした思いがこみ上げた。それは死を伝えるメディアが生を伝えるメディアへと進化を遂げた瞬間でもあったように思う。そこには体温がある。感情がある。今からほぼ100年前を生きた人々と真向かうことは、その体験そのものが「戦争」や「生と死」について考え、ひいては「映画の可能性」についてもう一度捉え直すことにも繋がっていくはずだ。PJがまたも革命を起こしてくれたことを嬉しく思う。

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牛津厚信