劇場公開日 2019年9月20日

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エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ : 映画評論・批評

2019年9月10日更新

2019年9月20日よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネクイントほかにてロードショー

甘美なノスタルジーではなく、今を生きるリアルなティーンのための青春映画

ソーシャル・メディアは、今の十代にとって欠かすことのできない存在。物心ついた頃には既に存在していて、人生の一部になっている。それにもかかわらず、ソーシャルメディアとティーンの関係を軸にした映画はダークで批判的なものが少なくなかった。YouTubeに自分のチャンネルを持つ13歳の少女を主人公にした「エイス・グレード」は一味も二味も違う。自意識過剰で内気な少女が自分を肯定するまでの過程において、ソーシャル・メディアはポジティブな作用を及ぼす。

かと言って、これは「自分の動画をネットに挙げたら世界中の人がアクセスして人気者に」というような、インターネット時代のおとぎ話ではない。主人公のケイラは学校でも目立たない少女で、彼女が自己啓発的なメッセージを発信する動画の閲覧数はいつも一桁台。エイス・グレード=8年生は、アメリカでいうと基本的に中学の最終学年に当たる。ケイラは高校に進学する前に、人気者のグループや年上のクールな高校生たちとの付き合いによって、自分を取り巻く世界を変えたいと願っている。可視化されたい。それはソーシャル・メディアの「いいね!」も数がアイデンティティの命綱である今のティーンにとって、切実な願いなのだ。

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監督のボー・バーナムはまだ二十代。高校生のときにYouTubeで自作のコミック・ソングを発信することでコメディアンとしてのキャリアの足がかりをつかんだ彼は、ソーシャル・メディアの光と影を充分に理解している。その上で、自分のような少年ではなく13歳の少女を主人公にしたことについて「記憶についての映画にはしたくなかった」と語る。これは“思い出フィルター”のかかった甘美なノスタルジーとしての青春映画ではなく、あくまで一日の出来事によって一喜一憂している、今を生きるリアルなティーンのための映画なのだ。ヒロインが自分に優しくすること、希望を抱くことを覚えていく物語の優しさの背後には、その若さに似合わないほどのバーナムの成熟がある。

山崎まどか

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