劇場公開日 2019年1月11日

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「現実の恐怖と異界の恐怖とが響き合って増幅されていく『エクソシスト』に似た力作」アンダー・ザ・シャドウ 影の魔物 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0現実の恐怖と異界の恐怖とが響き合って増幅されていく『エクソシスト』に似た力作

2023年9月7日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

英国アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀新人監督賞を獲ったというのだが、確かにそれだけのことはある力作だ。

イラン・イラク戦争時、イラク軍からのミサイル攻撃に怯えるテヘランの緊張した日常からくる恐怖が前半に描かれる。
そこにイラン説話における魔物の話を怖がる女の子、さらに魔物がミサイルをマンションに誘導したと信じるイラン家庭の話題が付け加わっていくと、日常の恐怖と魔物の恐怖が響き合い、本当に魔物がいるのかどうか、徐々に画面に惹きつけられていく。

女子の悲鳴と母のヒステリーが高まっていくにつれ、日常の恐怖と不幸は徐々に亢進されていき、その中に突然、魔物が姿を現わす。恐怖が一気に高まったところで、母子が着の身着のままで夜の街中を走って逃げていると、そこにイランの宗教警察が登場し、ヒジャブも着けていない母に向かって、次に同じことがあると笞打ちの刑に処すと脅す。

魔物ばかりでなく戦争も警察も恐怖をもたらす中、女子の心が母から引き離されようとするのに対し、母が必死に魔物と戦っていく…というのが中心的な話だが、日常・現実の恐怖と異界の恐怖とが響き合って増幅されていく映画の在り方は、オカルト・ホラーの金字塔『エクソシスト』に非常に似ている。というより同作からかなり影響を受けたのだろうと思う。

監督ババク・アンバリの作品は他に2作見ているが、『ワウンズ』は拾い物の良作といったレベルにとどまり、『アイ・ケイム・バイ』は駄作だった。しかし、本作を見て、今後とも注目すべき監督だと思わせられた。

徒然草枕