劇場公開日 2019年11月15日

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「単なるラブコメだと思ってたのに、かなり奥が深い・・・「今からが未来だよ」と言う撫子が好き。」殺さない彼と死なない彼女 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0単なるラブコメだと思ってたのに、かなり奥が深い・・・「今からが未来だよ」と言う撫子が好き。

2019年11月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 3組の高校生カップルが時間軸を超えて交錯する(SFではありません)。中心になるのは留年高校生・小坂れいとリスカ少女の鹿野なな。高校生で留年するのは海外留学した生徒か、病弱な生徒が定番だったけど、虚無感いっぱいで成績優秀でもある小坂れいはどことなくカリスマ性のある、冷静沈着な青年。「殺す」とか「死ね」が口癖である割にはその本気度も薄いけど、とらえ方次第では「死ぬなんて言うな」という愛情と、「俺にかまうな」という孤立感の両方が受け手によって変化する。一方の鹿野ななは、トイレに行く感覚でリストカットするほど死にたがりなのに、自分の存在に気づいてほしいという潜在意識の中でのかまってちゃんが見え隠れするのです。この二人のやりとりにクスッと笑ってしまい、真逆の口癖が心を通わす原動力となってくるのが面白い。また、泣かないななの心も妙に伝わってくる。

 地味子とキャピ子という、これもまったく対照的な女子高生だが、「可愛い」と言われたい症候群に陥ってるキャピ子は地味子を引き立て役として利用していると噂されたりする。恋愛中毒気味だが冷めた部分もあるという、わかりやすい性格のキャピ子に対して、もうちょっと描いてもらいたいくらい興味深い性格の地味子。こんな関係の女子は昔からどこにでもいたような気もします。

 撫子と八千代。「好き」を連発して、「好きでいてくれない八千代が好き」という撫子の弁証法的恋愛劇が面白い。逆に考えると、八千代も根負けして好きになってしまうと嫌われるという矛盾から、「好き」とは言えないでいるのだ。ようやく映画館デートへと発展するが、帰り際での会話シーンがなかなか深いのだ。

 こうした3人の物語が進み、老舗を手伝う姉弟、地味子と八千代という関係。そして意外にもラスト近くでななと撫子の学年が違うことがわかる。また、八千代にさっちゃんと呼ばれていた女性は5歳くらいの子供を連れていたので、時間軸もややこしくなってきた。産んだのは中学の時か?!となってしまう。この時間軸の波乱はストーリーには影響しないものの、全体を考えると混乱してしまいます・・・俺だけか?(泣)

 いわゆる脱力系のゆるい展開の映画ではあるが、デビュー当時の山下敦弘監督や三木聡監督作品とも違い、ハンディカメラ中心で心情表現が上手く撮られている感じがする。シュールな部分、意外な展開、驚愕とまでにはならないが非日常を描くことのできる監督だと思う。

kossy
CBさんのコメント
2020年8月18日

> 「今からが未来だよ」

この年齢になっても、この台詞に心が震えました。
撫子さんが言った時ももちろん、観終わった時には、その3倍くらい。ちょっと言葉がピッタリしないけれど、見事な人間賛歌ですよね!

CB
ゆり。さんのコメント
2019年12月2日

kossyさんへ。
突然お邪魔して、勝手な推測を書いてしまい、大変失礼いたしました。
再会したさっちゃんが年上に見えたので、年上の人をさっちゃんと呼ぶのはどういう場合かと思ったものですから。
kossyさんは沢山ご覧になっているから忘れてしまいますよね。
私は昨日観たのにすでに老舗が何の店なのかわかりません(汗)

ゆり。
kossyさんのコメント
2019年12月1日

yuriさん、ありがとうございます!
ストーリー的にもすっきりしました。
しかし、そのシーンがまったく思い出せないとは・・・ていうか、老舗が何の商売をしていたのかもさっぱり。旅館とかお菓子屋とか書こうとして、結局「老舗」と書いてしまいました(汗)

kossy
ゆり。さんのコメント
2019年12月1日

あのう、今日観てきたんですが、さっちゃんは、以前老舗でバイトしてた高校生で、中1位の八千代が憧れていた人ではないかと思ったんですが。原作読んでないのでわかりませんが。

ゆり。
グレシャムの法則さんのコメント
2019年11月19日

鑑賞の優先順位変更までしていただいたようで嬉しい限りです。
さすがの冷静沈着な分析(あ、決して嫌味ではないので誤解なさらないでくださいね)で、少し落ち着きを取り戻しました。って、そんなにうなされてたのか、と言われそうですが、その通りです。
今も職場の同僚にひっそりと勧めてました。『この世界の片隅に』の時と同様、映画→原作→また映画ということになりそうです。こうの史代さんの時はAmazonで『夕凪の街 桜の国』の原作とDVDを購入するところまでいってやっと落ち着いた経緯がありました。

グレシャムの法則