劇場公開日 2019年3月1日

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「私たちは他人にどこまで優しくなれるか」岬の兄妹 ちんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5私たちは他人にどこまで優しくなれるか

2021年11月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

2021年11月14日

知り合いから勧められて鑑賞。
あらすじを読んで、『誰も知らない』や『万引き家族』、『マザー』とテイストが似ている作品だと思いました。

以下、作品の感想です。

◆和田光沙の名演、迫真の演技
和田光沙さんは本作で初めて知りましたが、自閉症のある真理子役を完璧にこなしていました。本当に自閉症の方を起用したのかと思うほどにリアルでした。
濡れ場シーンも違和感がなく、観ている側も引き込まれてしまいました。

◆良夫が憎めない
良夫は自閉症の妹・真理子に売春をさせて、生活費を稼ぐという、鬼畜・外道の極みな性格です。
しかし、彼自身にも罪悪感があり、真理子が妊娠したときには、真理子が慕っていた客に夫になってくれないかと、必死に訴えるシーンが印象的でした。
どんなに外道なことをしても、やっぱり家族・妹を捨てることはできない優しい心が個人的に刺さりました。
真理子が、良夫に叩かれているにも関わらず、売春してもらった1万円を「家に入れる」と言うセリフは、健気すぎて辛かったです。

◆福祉サービスの存在を知らない
兄妹はなんで生活保護などを受けないのか、映画の設定が非現実的だというレビューがちらほら見受けられました。
私の知り合いに市役所で生活保護の業務に就いている方がいますが、生活保護を知らない層は一定数存在しているそうです。また、知っていても、「生活保護の世話になるなんて恥ずかしい」という思いから、福祉のサービスを受けずに、自滅していく層も存在しています。
豊かになった日本でも、最底辺層は福祉サービスまで辿り着けないのです。
自分とは無縁の世界だと決め込んで、そこに目を向けようとしない、見たくない、綺麗なものだけを見ていたいという我々一般人に、現実を突きつけてくるような感覚でした。

◆真理子の最後の表情は?
正直、ラストの真理子の表情の意味は分かりませんでした。
ただ、携帯の着信音に振り返った様子から、真理子は「お仕事」の合図を感じたのではないでしょうか。それを察した良夫の表情も印象的でした。

◆明日から自分は他人に優しくなれるだろうか
日本は世界の中では豊かな国ですが、今だに最低限の生活を保障してくれる福祉サービスにすら辿り着けない国民層がいます。また、犯罪を犯し、刑務所で罪を償った者が頑張って社会復帰をしようとするも、「国民感情」が彼らを社会から追い出す現実もあります。両者は生きたくても生きられない底辺という意味では同じ存在です。

私たちは、そのような人たちにどこまで優しくなれるだろうか。手を差し延べてあげられるでしょうか。

それを問われているような映画でした。

ちん