「彼ら、彼女たち」蜜蜂と遠雷 ソウイチさんの映画レビュー(感想・評価)
彼ら、彼女たち
戦場のピアニストという映画があった。ピアニストのユダヤ人である主人公が二次大戦中街にドイツの街に隠れ住んで生きながらえ、ラストでドイツの将校に見つかる。
お前は何だという将校の問いに、私はピアニストだ、と答えて、部屋に置いてあったピアノを弾き出す。怯え、隠れ、逃げ惑うことしかできなかった惨めな主人公の指が、神の指の様に神々しい旋律を奏ではじめる。将校は彼を生かす。
芸実と人生は別種のものである、故にあるものは芸術と呼ばれ、あるものは人生と呼ばれる。これはオスカーワイルドの言葉だ。
この映画に登場する何人かのピアニスト達がそれぞれの生き方で自分の芸術を削り出していく過程を楽しめた。コンクールなので順位がつけられるのだが、そこには重きを置いていない。芸術を作るということは、人生を飲み込んでしまう。その切なさが、演奏が終わった直後のピアニストたちの表情に見てとれた。彼らはこちら側に戻ってきたわけではない。飛び続ける鳥のように、飛ぶことに憑かれてしまっている。私には、憧れることすら出来ない。
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