劇場公開日 2019年10月11日

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「しっかりと“日本映画”に仕上がっている」真実 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0しっかりと“日本映画”に仕上がっている

2020年8月10日
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鑑賞方法:DVD/BD

■昨夜はカトリーヌ・ドヌーブの「真実」を観た。日本人是枝裕和監督がヨーロッパの稀代の大女優を使っての母娘もの。

しっかりと“日本映画”に仕上がっていることに驚いた所以。

壮大な「欧州歴史ドラマ」や「沈鬱なEU 社会問題」が起こるというのではなく、こぢんまりと、家庭内のすれ違いが、わずかな身内だけで語られている。
つまりは「参観日の思い出」「ボール紙のドールハウスの修理」「おばあちゃんのお仕事場見学」「娘の意地」「喧嘩」
・・山田洋次の「家族はつらいよ」的な。

■このコンパクトな“ウサギ小屋”映画が、どれだけヨーロッパで評価してもらえるのかは不明だけれど、是枝ワールドが日本人の僕には実にしっくり来たので大変面白かった。
(実際、矢口作品や三谷作品よりもずっと可笑しくて僕は各所で声を出して笑いましたもん)。

■ドヌーブの出演作は、近年では「ルージュの手紙」で、どこまで行っても近寄り難く、結局は圧倒的に個人主義のフランス人の生きざまをドヌーブvs. カトリーヌ・フロ母娘関係にも見せつけられたものだが、
本作は、ドヌーブに抱かれて涙ぐむ娘とそれを見守る脇役たちのこぢんまりとした大団円で物語が幕をおろすのだ。

日本人にキャスティングを置き換えて想像すれば、八千草薫、山田五十鈴、高峯秀子辺りの大女優を主役に据えれば、「女優一家の悲喜こもごも」は我々鑑賞者にも違和感なく、この母娘もののストーリーは邦画としても成功しただろうと思う。

“7年に1度しか帰宅しない母親”というモチーフの劇中劇が挿入されることで、母親不在の女優の家の穴の大きさが浮かび上がってくる。

娘リュミエールが母ファビエンヌに訊くのだ
「さっきの演技、何か思い出したの?お母さんのこととか?」
母娘4代のストーリーが動き出した瞬間だ。
ドヌーブのお守り?の小さな三角と、娘リュミエールのお守りのチープなドールハウスと、孫シャルロットのお守りの絵本と、そんな少女時代の小道具がいい味わいだ。
このそれぞれは、(たぶんあの三角も)女たちが子供時代に親からもらった宝物なのだ。

「サラ」に触れないファビエンヌの自叙伝だが、彼女の「母親」についても映画は触れない。自叙伝の真空の部分だ。
で、ファビエンヌはリュミエールの問いには黙っていて答えない。

そして主客逆転が起こる
生涯女優としてしか生きられなかった母親に、脚本家の娘はシナリオを献呈して母親を演じさせてやる。
婿は義母を称える歌を作る。
夫は優しくファビエンヌをたしなめる。
孫は女優を目指し、執事は戻ってくる。
丸く収まり大団円なのだ。

いずれ亡くす母親との、佳き数日。“間に合った感”で満ちるエンディング。

このDVDは何度も繰り返して観たい。一生心に残る名作だ。

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【気づいたこと】

①ウイットとエスプリを利かせた台詞。どれも意地悪くない。
こんなにも胸を打つ台詞を胸懐に蓄えて、役者の口を借りて自在に繰り出す是枝裕和という人は、脚本家としてもやはり天才だと思う。

②カトリーヌ・ドヌーブは、目がキョロキョロ動いて=首は回さない。首で振り向かないで彼女は立派な体ごと相手に向きなおる。
これはどうしたことか。むち打ち症でもやったか、首が太いのか。
あるいはシワを嫌い、大女優として首すじに老化の色を出さないために自制して首を回さないようにしたのか?
宿題ができた、旧作を観て確かめてみたい。

きりん
きりんさんのコメント
2020年8月23日

映画を観て2週間。
ハッと思った、
「エンドロールの犬の散歩シーン」・・
まさかファビエンヌは胸中で「ぜんぶ嘘、ぜんぶお芝居よ、ふんッ」なんて、したり顔じゃないですよね?
ありそうで怖くなったし。
(滝汗)

きりん
ミカさんのコメント
2020年8月14日

きりんさんが日本映画と感じた今作を、私は王道フランス映画だと感じました。面白いですね。ダンスのシーンが大好きで、何回も観てしまいました。特別編集版も是非。

ミカ
グレシャムの法則さんのコメント
2020年8月10日

おはようございます。
レビューを拝見して感じました。
『たかが世界の終わり』も確か家族というこじんまりとした世界を描くことで、普遍的な人間性の一面を描いていたと記憶しています。是枝監督の作品世界にも、そのような普遍性があると、ヨーロッパ(フランス?)でも理解されているのかもしれませんね。

グレシャムの法則
NOBUさんのコメント
2020年8月10日

きりんさん おはようございます。
 流石のレヴューですね。細部までの観察眼が素晴らしいなあ。
 「特別編集版」も良いですよ。イーサン・ホークやファビエンヌの現夫、元夫、執事リュックの姿がクリアーに描かれています。
 男性サイドからのファビエンヌに対する視点が含まれた分、面白かったですよ。
 私にとっては、”優劣付け難し”でした。
 では、又。

NOBU
kossyさんのコメント
2020年8月10日

きりんさん、こんばんは。
さすが捉えどころが鋭いですね。
そのウサギ小屋ってところは共感いたします。
これから是枝監督はどんな映画に取り組むのか楽しみでもありますね♪

kossy