劇場公開日 2019年10月11日

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「是枝監督がフランスを舞台に描く、セレブ一家のささやかで愛すべき日常」真実 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0是枝監督がフランスを舞台に描く、セレブ一家のささやかで愛すべき日常

2019年10月28日
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気付いたら終映間近…で、駆け込み鑑賞。前情報を入れ過ぎていたせいか、え!なーんだ、良いじゃないかー!とホクホク、にんまり。大物揃い過ぎるのでは…と敬遠していたドヌーブ、ビノシュ、ホークのアンサンブルがなかなかに絶妙です。久しぶりにサニエちゃんもたっぷり鑑賞でき、脇の方々含め、登場人物全てが愛すべき魅力にあふれていました。是枝監督らしいなあと思う以上に、フランス映画の良心にあふれているなあ…という気持ちに。懐かしくも新鮮な作品でした。
何より、主人公が大物女優、芸能家族の物語、というところがユニーク。是枝作品といえば、市井の人を丁寧にすくい上げて描き出すところに味わいがあり、希林さんもリリーさんも、物語の中ではそこらのおばあちゃん、おっさんにしか見えません。一方、今作。最初は本人にしか見えない人々が、いつしか女優ファビエンヌ、娘で脚本家のリュミエール、その夫でテレビ俳優バンクに。そして、どこまでが嘘(芝居)で、どこまでが真実なのか分からないやり取りが、あれよあれよと繰り広げられます。それぞれの思惑がすれ違い、絡まり合い、ふっと解けて重なって…。映画の中でSF映画を撮る、という大仕掛けの中で、ごくごくささやかでありふれた事柄を描く点に、最後まで軸足を置いているのもさすがです。俳優を主人公にしたことが、仕事で悩む、生き方にふと立ち止まるという、誰にでも通じる心の揺れの描写に効いていました。ファビエンヌが撮影の中で演じることに迷い悩む姿が、日常では良き母良き姉、そして自分らしくあろうと葛藤する姿に連なっていき、我が事のようにハラハラひやひやしてしました(無論、ドヌーブ様とは歳も姿もかけ離れておりますが…)。
一家が前に進み出す姿を、ぐんぐん引いて上空から捉えるエンドロール。至福の時間が終わってしまった…と思ったら、さらに素敵なおまけが。ドヌーブならぬファビエンヌが愛犬を散歩させる長回しに、思わずニンマリしてしまいました。最後の最後まで映画の楽しみは続きます。そして、彼らのその後や描かれなかった物語を日々の中で想う楽しみも、どこまでも続きそうです。

cma