劇場公開日 2019年6月7日

「海獣賛歌の映像詩」海獣の子供 ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0海獣賛歌の映像詩

2019年6月17日
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鑑賞方法:映画館

よくぞ五十嵐大介の世界をアニメーションで再現した! 企画することすら恐ろしいそれを、見事に成し遂げたスタジオ4℃に敬服する。

その圧倒的な海中演出と背景描写は、決して過大な評価ではなく、これまでのあらゆるアニメーション史の中でも光る個性と魅力を持っている。
海中の景色は、最初は塩水に目をつけた時のゆらぎから描かれ、琉花が海の子らとの交流を重ねる毎に溶け込んでいく圧倒的な海の世界は、ナショナル・ジオグラフィックにすら絶対に描けない生命と躍動に満ちた海の世界をアニメーションの技術の粋を駆使して表現仕切っている。これだけでも本作には強烈な存在意義がある。海獣の子供以上に美しく海中世界を描いたアニメーションは、おそらくこの世に存在しないのだ。

海中だけではない、背景美術も特筆に値する。五十嵐大介独特のゆらゆらと揺れる線を絶妙に落とし込み、非常に写実的でありながらとても生命力や生活臭に満ちた情緒ある世界観を作り上げられている。それは最近アホみたいに流行っている新海誠風のパキパキの背景画よりも、遥かにずっと海辺の街の夏休みの空間に満ちる匂いや触覚や、あるいはかつての夏の日の憧憬までを描けているのだ。あぁ、こんなに江ノ島が美しく感じたことはなかった!それに中学生らしい雑然とした和室も、自宅の玄関も、アイスクリームを売る駄菓子屋も、ふべてに湿度がある!一方でタンクローリーや高速道路など、湿度を持たないものはハッキリとその輪郭が描かれ異質なものとして表現されてる点も気になった。

原作と比べかなりマイルドに、一般人向けに噛み砕かれた内容にしつつも、それでも一線は越えない塩梅で五十嵐大介ワールドを維持してるバランス感覚もなかなか良い。それでも大抵の人間にはついていけないアニメなのだろうけど、原作ではだいぶサイコパスだった琉花はずっと思春期の女子中学生っぽくなり、彼女の両親の存在感も強くなった。家庭内のぎくしゃくさも華燭されないリアリティのあるものになっていて、琉花の人間性を表現しているものの邪魔にはならないいい塩梅になっている。細かい挙動も含め、本当に女子中学生らしいキャラクターにまとめ直されてるのが素晴らしい。

もっとも、シナリオには流石に説明不足だったり適当に処理してると思ってしまな点も散見され、細かい説明など野暮なシーンが無数にあるのに(重要な存在なのに地上でも自由に空間移動しまくる海と空とか)、病院での空の科学的調査や間抜けすぎる米軍の存在、前術のような琉花のキャラクター性含めてそれなりに描写されるリアリティが噛み合ってないあたりは観ててモヤっとした。

とはいえ、陳腐な骨組みのくせに外見だけごてごてと飾り付けられた設定やシナリオのアニメばかりが持て囃される今において、そんなものよりも描きたい美とメッセージを凄まじい技巧でもって表現された、異端のようなこのアニメーション作品にたいして、自分は愛おしさを感じる。こんな作品がなくなってしまってはいけない。間違いなく流行らないけど、願わくばしっかり評価されて欲しい。

・地球は子宮。隕石は精子。水をたたえた惑星は、宇宙における生命のゆりかごである。あぁ、なんと五十嵐大介的な表現だろうか。
・スカート短いけど絶対にパンツは見せない。
・呼吸とか水圧とかそういうことは突っ込まない。
・琉花がカミキリムシ追い払う時の表情が五十嵐大介っぽくて可愛い
・空に初対面でからかわれて萌えキャラのように怒る琉花が五十嵐大介っぽくなくて可愛い
・エビめっちゃ美味そう。
・なんで外人もみんな流暢な日本語喋ってんの??

ヨックモック