劇場公開日 2018年11月16日

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「獣たちの絆」ボーダーライン ソルジャーズ・デイ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5獣たちの絆

2018年11月18日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

興奮

アメリカ/メキシコ国境沿いの対麻薬戦争を描き、高い評価を
得たアクションスリラー『ボーダーライン』の続編が登場。
監督は前作のドゥニ・ヴィルヌーヴから
イタリア人のステファノ・ソッリマにバトンタッチ。
(イタリアで着実にキャリアを積んできた方らしい)

本作のあらすじ。
アメリカ政府はメキシコの麻薬組織(カルテル)を
テロ組織と認定。強力な後ろ盾を得た国防総省のマットは
レイエスというボスが仕切る巨大カルテルを混乱に陥れるため、
彼の16歳になる娘を敵対組織の仕業に見せ掛けて誘拐しようと
企てる。実行役は、マットの旧知の暗殺者アレハンドロ。
誘拐は成功するものの、その後、事態は思わぬ方向へ――。

...

前作のオープニングにもゾッとさせられたが、今回の
冒頭で描かれる事件はよりストレートでむごたらしい。
一見すると麻薬組織とはあまり関連の無さそうな事件
なのだが、これがやはりメキシコ絡みの話になってくる。
また、カルテルは麻薬だけでなく密入国の斡旋も大きな
資金源としているそうで、この“ビジネス”と
前述の偽装誘拐が同時並行で描かれる流れ。

前作では主にカルテルによる麻薬流入ルートについて
描かれていたが、今回はカルテルの“ビジネス”をより
広範囲に描いている上、メキシコではなくアメリカ側で
影響を受ける人々がより具体的に描かれているので、
アメリカ在住の人々には更に身近な恐怖として
カルテルの存在が描かれていると言える。

...

主人公アレハンドロとマット。
前作にて正義も倫理も無視した情け容赦無いやり方で
カルテルを混乱に陥れた彼らだが、今回はそんな
二人ですら決断を躊躇するような瞬間が訪れる。
「こればかりは」と苦渋の表情を浮かべるマット。
「やるべきことをやれ」と戦友に声を掛けるアレハンドロ。
獣だらけの無情な世界に慣れ切ったように見えた二人に、
まだ人間的な部分が残っていたと思わせる描写が熱い。

そしてアレハンドロと麻薬王の娘イサベル。
自分の娘を連想させるのか、珍しく微笑みさえ浮かべる殺し屋。
気性の荒いイサベルも、彼の人となりを知り、信頼を寄せていく。
(イサベルを演じたイザベラ・モナーがグッド。目力はあるし
 繊細で良い演技もする。どこかで見た気が……と思ってたら
 『トランスフォーマー/最後の騎士王』に出てたあの子!)

前作よりも規模の大きいアクションシーンも増え、
キャラクターにも少し人間味が宿った点が魅力的だ。

...

だが前作よりも……なんと言い表せばいいか……
焦点がやや定まっていない感じを受けた。
観終わった後、物語の全体を捉えようとした時に、
少し輪郭がぼんやりして感じる、というか。

まず、前作よりもアレハンドロとマット(特にマット)が
ナイーヴになった印象を受けたり、素敵なキャラだが
寓話的なエンゲルの登場等で、前作の冷徹な世界観が
後半わずかに薄まってしまった気がするんである。

また前作にはケイトという、観客と同じ目線で物語を
先導するキャラがおり、観客は彼女を通して倫理観を
容赦無く揺さぶられる感覚を味わった訳だが、今回は
4人の主人公がそれぞれ描かれ、視点や思惑が分散。
ここが自分の「ぼんやり」という印象に繋がったのかも。
あと、マットやイサベルの決着をもう少ししっかり
見たかった、という消化不良な気分も含まれている。

...

テーマの点で言えば、今回は『ボーダーライン』ではなく
原題『Sicario(暗殺者)』に寄った内容と言えなくもないが――
とある人物をアレハンドロが引き込む流れは、
あんまり得心の行く流れではなかったかな。

まとめると、前作よりテーマとして訴えられるものは弱く、
冷徹な世界観も後半やや弱くなってしまう感はあるのだが、
キャラクターの魅力やアクションの迫力は増しているし、
世界観の拡張=カルテルの実態の深堀りはさらに注力されている。
前作よりは落とすが、それでも観て損ナシの3.5判定です。

<2018.11.17鑑賞>

浮遊きびなご