劇場公開日 2019年12月20日

「間違いなく、今観るべき一作」ブレッドウィナー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5間違いなく、今観るべき一作

2021年9月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年になって急展開したアフガニスタンの、特に女性たちの状況について描いた作品です。

日本ではすでに2019年に公開されているため、今回は再上映ということになります。再公開のきっかけとなったのは、もちろん今年に入って急展開したアフガニスタン情勢でしょう。
本作の舞台となる2001年、首都カブールはタリバンの支配下に置かれており、作中ではタリバンの、特に女性に対する苛烈な扱いが描かれています。史実ではタリバンはこの後、カブールから駆逐され、アフガニスタンの人々は抑圧から(結果的に一時的とはいえ)解き放たれます。本作の製作自体が、アフガニスタンの人々にもたらされた自由の象徴ともなっています。
しかしその後タリバンは勢力を回復し、ちょうど20年後の今年、再びカブールを含めたアフガニスタンの大部分を支配下に置きました。つまり本作で描かれている人々の生活、女性たちの苦境など、映画製作時には「かつてアフガニスタンであったこと」として描かれていた事態が、再び現実のものとなっているのです。作中で主人公パヴァーナとその友人が交わすある会話が、現在の状況を踏まえると非常に哀しい言葉となっており、一層心が痛みます。

作品は抑圧下を強く生きた少女の勇気の物語として描かれているのに、現在では、そんな彼女がこの後どうなってしまうんだろう…、というどっしりとした不安が鑑賞感として残ります。彼女のような状況に置かれた人々が今現在数多くいるということを認識するためにも、本作はできるだけ多くの人々に観られるべき作品と言えるでしょう。

製作時期としては前後するけど、最近も『ウルフウォーカー』が公開されたカートゥーン・サルーンの作品とあって、過酷な現実を舞台にしつつ、ファンタジー的な要素も忘れていないところはちょっと救いです。そしてやはり高度で美しいアニメーション技術には目を見張るものがあります。

一日も早く、本作のパヴァーナ達の状況が再び過去の物語として語られるようになる日を願っています。

yui