劇場公開日 2018年8月11日

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英国総督 最後の家 : 映画評論・批評

2018年7月31日更新

2018年8月11日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー

総督に託されたインド独立の難事業。使用人男女の試練の愛を添え情感豊かに描く

英国に暮らすインド系移民2世の女子高生がプロサッカー選手を目指す「ベッカムに恋して」を観た映画ファンなら、監督・共同脚本のグリンダ・チャーダもまたインド系移民の女性であることを覚えているかもしれない。1947年のインド・パキスタン分離独立を現地で体験した祖父母を持つチャーダ監督が、自らのファミリーヒストリーを重ねるように描き出すのが、本作「英国総督 最後の家」だ。

第二次世界大戦で疲弊した英国は、2世紀近く植民地支配してきたインドの返還を決定。宗教とカースト制度による対立が根深い現地の指導者層へ、円滑に主権を譲渡する命を帯び、ルイス・マウントバッテンが最後のインド総督として着任する。独立後の統一インドを望むヒンドゥー教徒・シク教徒と、多数派から分離してパキスタンを建国したいムスリム(イスラム教徒)連盟の対立は深刻で、各地の暴動に発展していた。統一インドを主張するネルーやガンディー、ムスリム連盟のジンナーといった指導者たちと折衝を重ねたマウントバッテンは、ついに苦渋の選択をする。

チャーダ監督はこうした上層部の政治的駆け引きの描写と並行して、総督のインド人秘書による回顧録に基づき、官邸使用人たちの揺れ動く日々も紡いでいく。とりわけ、総督秘書でヒンドゥー教徒の青年ジートと、総督の娘の世話役を務めるムスリムの女性アーリアとの宗派を超えた恋の行方が、70年も前の時代設定でありながら現代の私たちにも共感しやすいエモーショナルな要素としてうまく機能している。

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マウントバッテン役は、「パディントン」シリーズのヒュー・ボネビル。同じ英国人俳優のコリン・ファースに似たダンディーさと、喜劇役者らしいユーモラスな雰囲気の絶妙なバランスが、困難な交渉に骨を折りながらも重苦しくなりすぎないキャラクターに活かされた。総督夫人エドウィナに扮するのは、90年代の米ドラマ「X-ファイル」のスカリー捜査官役が懐かしいジリアン・アンダーソン。夫の仕事を支えるだけでなく、自らもインドのために献身する姿を、気品あるたたずまいで表現した。

チャーチルの言葉として知られる「歴史は勝者によって記される」という一文が、映画の冒頭に示される。権力者が都合よく事実をねじ曲げるのはいつの時代も変わらないが、チャーダ監督は当時被支配者だったインドの人々の視点も添えて描くことで、そうした因習の超克を試みた。そのおかげで本作は、インド・パキスタン分離独立に至るまでの激動期を、立体的かつ情感豊かに伝える普遍的な価値を獲得したと言えるだろう。

高森郁哉

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