劇場公開日 2019年3月22日

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「エンタメと社会派メッセージで、リーはアメリカ人種問題と闘い続ける」ブラック・クランズマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5エンタメと社会派メッセージで、リーはアメリカ人種問題と闘い続ける

2019年10月16日
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鑑賞方法:DVD/BD

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ハリウッドを代表する黒人監督として人種問題や社会に切り込む力作を発表していたが、最近は精彩に欠ける凡作続いていたスパイク・リー。
白人監督が撮った人種問題映画への批判や議論を呼ぶ発言などで、すっかり日本の井○○幸のような辛口お騒がせのイメージが…。
他人の監督作にあーだこーだいちゃもん付けてないで、またかつてのようなぐうの音も出ないような力作撮ってみろ!…と思っていたら、
本当に撮った!

こりゃあ~面白かった!
スパイク・リー久々の快心作!見事な復活作!
『マルコムX』などかつての力作と並ぶ、キャリアベスト級と言っていい一作!

まず、話が面白い!
1979年。コロラドスプリングスの警察署で初の黒人刑事となったロン。
情報部配属となった彼は、電話で白人至上主義団体KKKに入会を申し込み、潜入捜査を開始する…。

…ちょっと待てよ。
ロンは黒人。顔を合わせる場にのこのこ現れたら、入会云々の問題どころではない。
そこで取った方法は…
電話対応はロンが。直接の対面は同僚のユダヤ系刑事フリップが“ロン”に成り済まして。
前代未聞の“二人一役”による潜入捜査…!

何とも大胆でユニークなアイデア。映画に打ってつけ!
…と思っていたら、何と実話!二重で驚き!
実話の驚きと映画ならではの面白さで、なるほどこれがつまらない訳がない!

黒人なのに電話口では白人っぽくまくし立て、差別発言をぶちまけるロン。
何でも、黒人っぽい喋り方と白人っぽい喋り方があって、一発で違いが分かるのだとか。
しかしこれが後々に、KKKの幹部に一泡吹かせる事になる。

フリップはまず、ロンの話し方から真似る事に。
マスターしないと一発でアウト。
さらにフリップには、もう一つ注意を払う事が。
ユダヤ系である事もバレてはならない。
黒人のみならず、KKKはユダヤ系も白人とは認めない。
実際KKKメンバーの中の過激な活動家が、フリップがユダヤ人ではないかと執拗に疑いの目を…。
潜入捜査とユダヤ人、フリップはWで危険な橋を渡る。

潜入捜査モノなので、勿論それを活かしたハラハラドキドキの見せ場も。
終盤、KKKの大物幹部を迎える。フリップはロンとして同席は当然として、ロンも上層部からの命令でその大物幹部の警護担当に。
二人が同じ場に。例の過激活動家が不審な点に気付く。
最大の危機…!
二人一役の潜入捜査は成功出来るのか…!?

黒人とユダヤ系の刑事バディ。
サスペンスもたっぷり。
当時のブラック・カルチャーや音楽や快テンポが70年代のブラック・ムービーのノリを思わせる。
そして、ユーモア。過激な差別発言や風刺もこのユーモアでくるみ、スカッとする快作に仕上げている。

以前にも『インサイド・マン』というキャリアの中では珍しいクライム・エンターテイメントを手掛けたが、本作はそれ以上のエンタメ度!
硬派な社会派作が多かったが、まさかリーがこれほどのエンターテイメントを撮れるとは…!
新しくて面白く、リーの監督作の中でも最も万人受けする作風。

二人一役のジョン・デヴィッド・ワシントンとアダム・ドライヴァー。
ワシントンは子役としてのキャリアはあるが、初の大役/初の映画主演の新人だが、堂々の演技。父親を期待させる。
“ワシントン”という姓から、父親は言うまでもなくあの黒人名優。奇しくも父親もリーの作品でブレイクし、数奇な縁を感じる。
ドライヴァーは一応助演の立ち位置だが、実際対面の潜入捜査シーンではこちらも主演と言っていいくらいの巧演と見せ場。黒いマスクで素顔を隠すより、やはりこういう作品こそ彼の本来の実力発揮。

任務遂行、KKK大物幹部をコケにし、同僚の人種差別刑事にもきっちり落とし前。
見てて、本当に痛快!
でも、単にそれだけで終わらないのが、リー。

黒人やユダヤ系への差別や偏見、
アメリカ映画初の大作で名作と言われながらも、激しい人種差別描写を肯定するかのような『國民の創生』へ一石投じ、
実在の人物であるKKK大物幹部や“アメリカ・ファースト”を声高らかに掲げる現アメリカの独裁者を痛烈批判。
そして、今尚続く人種問題を浮かび上がらせる事も忘れない。

エンターテイメントとしての面白さ、ズシンと響く社会派作品としてのメッセージ。
昔も今もアメリカを蝕む人種差別問題へのリーの怒りの声に、しびれろ!
またお騒がせ辛口屋に戻らないで、作品を通じて闘い続けて欲しい。

近大