劇場公開日 2019年7月20日

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「最近、片岡礼子が出演している映画をよく観ていたために、ゼインの母親が片岡礼子に見えてしょうがなかった・・・」存在のない子供たち kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0最近、片岡礼子が出演している映画をよく観ていたために、ゼインの母親が片岡礼子に見えてしょうがなかった・・・

2019年11月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 どうしようもなく泣きたくなった。思い出すだけで泣いてしまう。どことなく是枝監督の『誰も知らない』、『万引き家族』とも共通項があるのですが、まだ乳飲み子であるヨナスの演技が素で可愛いのだ。彼がカンヌの男優賞を取れば最年少記録更新できたのになぁ・・・と鑑賞直後に感じました。

 それにしてもフィクションでありながら、普通に暮らしてる姿はリアルそのもの。少ない台詞の台本であっても、ゼイン少年は即興で演じたらしい。ありのままを演技する、まるでかつての柳楽優弥みたいな存在感。誰が見ても可愛い子供なのに親の愛情は全くなくて、単に生活のために小銭を稼いでいるだけの存在なのだ。

 公式サイトによれば、ゼインにしてもティゲストにしても映画のキャラと同じような体験をしているらしい。滲み出てくるような貧困への恨み、容赦しない移民局への恨み、そして誰にでも愛情を注ぐことができる底知れぬパワーをも秘めている二人だ。そこへ赤ん坊のヨナスが屈託のない笑顔で和ませてくれて、彼もまた限りなく天使に近いような存在として描かれている。

 物語はシリアからの難民であふれ、アフリカ方面からも移民が大勢いるレバノン。監督自身も戦争経験があり、なにかと紛争の多い中東の小国。格差の程度はわからないが、GDPからの推測では世界平均と同水準。映像の中にも中流家庭っぽい住宅街の真ん中に貧困層エリアがあることもわかるし、貧困から抜け出せないで喘ぐ層も相当多いのだろう。そのうえシリア難民が100万人とも言われるほど流入しているのだ。

 核となる部分は出生届を提出しなかったためにゼインが社会的に存在しないことになってること。大好きな妹が金のために嫌味な男と結婚させられ、ゼインが家を抜け出し、エチオピアからの移民でシングルマザーのティゲストと共同生活すること。そしてティゲストが不法移民として逮捕され、一人で1歳の子を育てなければならなくなったゼインを描いている。終盤の展開は原題CAPHARNAUMの意味する“混沌・修羅場”をよく表している。

 無責任に子供を産むな!と訴えるテーマと、DV、虐待の現実。子供が欲しくても現実の生活を考えると無理・・・といった日本の少子化問題と真逆のようだが、底辺にある問題は同じ。福祉は行き届いてないし、格差社会を是正する動きがないといった点は全世界共通なのかもしれないし、放っておくと子供たちの未来は暗くなる一方だ。また、3日ほど前にトランプがイスラエルのパレスチナ入植を国際法違反とはならないとイスラエル寄りの政策を打ち出したために、中東にまた悲劇が起こる可能性もあるのだ。移民に対する無慈悲な扱いといい、ヒューマニズムの欠如はどんどん広まっていくに違いない。移民に寛容なヨーロッパも今後はどうなるかわからないし、未来は混沌としている・・・愛情だけでも残れば救われるのだろうけど。

kossy
NOBUさんのコメント
2019年11月22日

おはようございます。会議前に拝読しました。タイトルに笑い、見事なレビューに感服しました。普段はあまりコメントは書かないのですが、私の拙いレビューと比べてしまったので。流石、このサイトを牽引されている方ですね。おべんちゃらではないです。

NOBU