劇場公開日 2018年12月22日

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「観終えて分かる、邦題の味わい」家(うち)へ帰ろう cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0観終えて分かる、邦題の味わい

2019年3月3日
iPhoneアプリから投稿

まず、邦題がいい。
観る前は、「ありきたりだな」と思い、それほど惹かれもしなかった。けれども観終えてみると、英題「The Last Suit」以上にぴったり、しっくりくる。映画が描いているのは、「友にスーツを渡す」ことではなく、「自分にとって大切な場所に帰ることの大変さ・大切さ」なのだから。そして「家(うち)」は「家族」ではない。最期に求める・帰り着く場所が、必ずしも血縁とは限らない…というほろ苦さも、この映画にはにじんでいる。
子供たちの勧めで老人ホームに入居することになった元仕立屋の主人公は、自分が仕立てた最後のスーツを(たぶん偶然)見つけ、故郷の親友に届けようと思い立つ。旅の途中、彼は幾度となく「死ぬ前に、古い友にこのスーツを届けなければならない」と重々しく口にする。けれどもそれは、自分に向けた言い訳のようにも思われた。ナチスの壮絶な迫害から逃れ、遠くアルゼンチンに移り住んだ彼にとって、故郷への道は遥かに遠く、心的にも険しい。その重みが、旅の過程でじわじわと伝わってくる。
勢いのまま旅を始めた彼が選んだのは、スペインに飛んだ後に陸路でヨーロッパを横断するルート。マドリッドで(たぶん最も信頼していた)娘宅を訪ねるが、彼女も他の子らと同類だったと思い知らされる。行き場のない彼は、とにかく進むしかない。言葉も通じず、ドイツを通らずポーランドを目指そうとする彼の旅は、難題だらけだ。そんな彼に手を差し伸べるのは、いずれも美しい女性たち。機知に富んだ彼女たちとの出会いが、頑なで孤独な彼に、少しずつ変化をもたらす。
「自分にとって大切な場所」は、思いがあふれ過ぎていて、距離感が取りにくい。再び訪れてみたいと思う反面、当時の印象が崩れる不安もある。思い返すほどに、記憶の中でデフォルメしているかもしれないとの疑念さえよぎる。寝苦しいホテルのベッドに身体を縮め、長距離列車に揺られながらまどろむ彼が見る夢は、恐ろしくも悲しい記憶の断片ばかり。それらはきっと、家族にも語らずに、抱え続けてきた過去なのだろう。胸の奥底に沈めていた思いを、彼は少しずつ解き放つ。彼女たちは彼の言葉に静かに耳を傾け、共に進む。南米から東欧へ、長いながい旅路は、巻き戻れていく彼の人生に、ゆるやかに重なっていく。(ふと、韓国の秀作「ペパーミント・キャンディ」が思い出された。)
かつての我が家、そこに住んでいるはずの友。彼はそこに帰り着くことができるのか…。息を呑むラスト。音は一切なく、刻み込まれた深いしわとその奥の瞳、そして視線のみで語られる物語の豊かさに、胸がいっぱいになった。大きなスクリーンで存分に味わいたい、忘れがたい旅の映画だ。

cma
cmaさんのコメント
2019年3月9日

レビュー拝見しました。
主人公は、ポーランドでの生活を妻にどこまで話していたのだろうか、と今も時々考えます。

cma
海野 花茂目さんのコメント
2019年3月9日

映画のレビューを
初めて投稿した者ですが、
家(うち)とは、
生まれ育った家屋、場所、そこに居る人
という、
レビュータイトルを
つけてみました。
タイトル見ただけで
ネタバレなので、
マナー違反でしたかねぇ?

海野 花茂目
海野 花茂目さんのコメント
2019年3月9日

おっしゃる通りですね。
カタカナ四文字に
省略する
日本映画が、
流行ってますよね。
なかなかの
映画通と、
お見受けしました。

海野 花茂目
cmaさんのコメント
2019年3月8日

コメントありがとうございます。
説明過多な邦題が目立つ中、すっきりとしていて良いなと思いました。(商業的にはアピールが弱いのかもしれませんが…)

cma
海野 花茂目さんのコメント
2019年3月8日

共感しました。
邦題つけた人の
言葉選びのセンスに
感嘆します。

海野 花茂目