「SNSの底なし沼から響く歓喜の声」イングリッド ネットストーカーの女 robinsnestさんの映画レビュー(感想・評価)
SNSの底なし沼から響く歓喜の声
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「ストーカー」と聞くと、「危険な情事」「ミザリー」や、最近だと「グレタ GRETA」などが思い浮かぶ。スクリーンで繰り広げられるエクストリームな凶行を目の当たりにしていると、自分とは無縁なものだと思いながら、他人事として大いに怖がることができる。
しかし、本作の中で描かれるのは、現代を生きる誰もが被害者に、いや加害者にもなりうるSNSを通じたネットストーカー。世界中に開かれたTwitterやInstagramを彩る個人情報に、誰もが匿名でアクセスできる。常識や価値観をかなぐり捨てつつも、他者とつながることができる危うい空間。
主人公イングリッドは、憧れのインフルエンサー・テイラーに近付くため、嘘を重ねる。テイラーお気に入りのレストランで同じメニューを食べ直後に吐き出し、夜はスナックをむさぼり口の周りをべとべとにしながら、血走った目でテイラーの投稿に「いいね」を押し続ける。しかし、一方のテイラーもまた、嘘を抱えているーー。フォローする側・される側は関係なく、SNSの空虚な"実態"がまざまざと映し出される。皆が泣きながら、叫びながら、せっせと幻想を作り上げていく。
特筆すべきなのは、ゾッとする結末。施設に入っても断ち切ることができなかったSNS依存が、ようやく終わりを迎えるかと思われた時、SNSの奇跡に祝福され、再び沼に引きずりこまれていくイングリッドは、確かに晴れやかな笑顔を浮かべている。
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