劇場公開日 2019年1月5日

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「変化に取り残された人たち」迫り来る嵐 ローチさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0変化に取り残された人たち

2019年2月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

97年の香港返還は、中国にとって大きな転換点だった。香港側から見た返還を描いた作品はこれまであったが、中国側の視点で描かれた作品はあまりなかった。香港返還と前後して、中国は大きな経済成長期に入ったが、その急激な成長が市井の人々にもたらしたものが富だけではなかったことがうかがえる作品だ。

簡潔に言うと、急速な社会の変化によって漠たる不安が社会を覆っていたのだ。その不安が動機不明の猟奇殺人として噴出し、その事件に翻弄される人々を本作は描いている。主人公の男は、今のままでいいと思っているが、変化は否応なくやってくる。男と思いを寄せる、流れ者の女は香港を希望の土地だと信じている。変化への不安と期待が人々の中に入り混じっていたのだ。
97年には巨大な製鉄工場だった場所が10年後には、ショッピングモールに変わっているのも中国の変化を象徴的に表している。その変化に身も心も取り残された主人公のような人は、おそらく中国にたくさんいたのだろう。

杉本穂高