劇場公開日 2017年11月4日

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「実存主義」KOKORO 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0実存主義

2017年11月20日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

 高収入の夫とティーンエイジャーの二人の子供がいて広い家に住んでいるという、主人公のステレオタイプの幸福は、弟の死によって崩れ去ってしまう。死がこんなにも身近で肉体はいとも簡単に滅びてしまうという事実は、主人公を魂の救済の旅へ押しやる。
 弟を怒らせて事故に至らせてしまった罪悪感はいつまでも消えないが、訪れた自殺の名所で自殺の危機に瀕した人々が本当に自殺してしまったり、或いは思い止まったりするのを目の当たりにすることで、いつしか生の本質に気がつきはじめる。
 主役の女優イザベル・カレはこの映画で初めて見たが、表情を豊かに表現するタイプではないように見えた。しかしそれは、静かに時間が過ぎていく環境の中で心もまた静かに変化してゆく様を表現するためだったようだ。この人が陽気に笑う顔を見てみたい気にさせる好演であった。
 門脇麦はエキセントリックな役柄を演じるのがとても上手である。この作品では主人公を誘導する狂言回しの役割を上手にこなしていた。
 國村準は何でもこなす名人だ。この作品では、自殺する人たちを時には助け、時には死体を確認しながら、未だに悟りを得られない自分自身を正面から受け止める退役警官の役が見事であった。
 ストーリー性のない、情景描写と心象風景の映画だが、見終わってどこかホッとする、とても哲学的な作品だ。人間存在の本質を問いかける実存主義の映画といってもいい。静かで上品な作品である。

耶馬英彦