劇場公開日 2020年1月17日

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コンプリシティ 優しい共犯 : 映画評論・批評

2020年1月7日更新

2020年1月17日より新宿武蔵野館にてロードショー

若手とベテランの有り難き“共闘”が、物語と製作の双方に深く響く

なんとも頼もしい新人監督が現れた。近浦啓、堂々の長編映画デビュー作だ。大学の頃から監督を志すが、先に映画製作のための経済的基盤を作るべくスキルを活かしてウェブ制作会社を起業し成功させたというから、行動力を伴う策士でもある。2013年、出演の可否を「脚本だけで決める」という藤竜也に主演を快諾され、初の短編「Empty House」を発表。同作が高雄国際映画祭で上映された際、のちに日中合作「コンプリシティ 優しい共犯」の中国側プロデューサーを務めることになるフー・ウェイ監督と出会う。本作製作に至るまでの舞台裏も映画のようにドラマチックだ。

主人公は、中国河南省から技能実習生として来日するが、劣悪な職場環境から逃げ、不法滞在者になってしまったチェン・リャン。偽造IDで“リュウ・ウェイ”になりすまし、寡黙な老店主・弘(藤竜也)と娘が営む地方の蕎麦屋で働くことになる。

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ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作「孔雀 我が家の風景」の準主役で俳優デビューしたルー・ユーライが演じるチェン・リャン(=リュウ)と、彼に根気強く蕎麦打ちを伝授する弘の関係が軸となる。たとえば、リュウが弘に向かって初めて「お父さん」と呼びかけたときの、藤竜也が背中だけで表現する感情。あるいは、リュウの問題を知った後、複雑な思いを秘めながら我が息子のように受け入れようとする表情。頑固さと包容力が共存する弘と、誠実で危うげなリュウが心を寄せ合う、儚い夢のような時間が永遠に続けばいいのに、と思わずにはいられない。

感情の機微を精妙にとらえる映像を可能にしたのは、是枝裕和、河瀨直美ら名だたる監督たちの作品で撮影監督を務めてきた1940年生まれの山崎裕。ほかにも50年代、60年代生まれの経験豊富な製作陣が、近浦監督のビジョンの具現化に貢献した。

技能実習生の失踪を伝えるニュースに触れたことで、近浦監督は本作の着想を得た。不法移民や難民の実情、不法滞在者の就労問題といったテーマを扱う映画は世界的なトレンドだが、類推されるような社会派作品とはやや趣を異にする。若者が他者との出会いを通じて、自らのアイデンティティーを確立しようともがく姿を描く普遍的な青春物語であり、厳しい時代の地方都市で互いに思いやり支え合って生きようとする家族の物語でもある。リュウへの“最後の蕎麦”に弘が託した思いは、きっと国境を越えて観客の心に響くはず。もう一点、中華圏でも誰もが口ずさむほど有名だというテレサ・テンの名曲「時の流れに身をまかせ」が、劇中で印象的に流れることも言い添えておきたい。

高森郁哉

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