劇場公開日 2017年11月3日

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グッド・タイム : 映画評論・批評

2017年10月31日更新

2017年11月3日よりシネマート新宿ほかにてロードショー

その場しのぎのアクシデンタルなスリルを極めたノンストップ犯罪劇

2014年の「神様なんかくそくらえ」で東京国際映画祭グランプリと監督賞をダブル受賞したジョシュア&ベニーのサフディ兄弟の新作である。ロバート・パティンソンを主演に迎え、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に初選出されたということで、いかなる“高み”へとステップアップした作品なのかと思いきや、何とこれ、開けてびっくりのクライム・サスペンスなのだ!

舞台はサフディ兄弟の地元ニューヨークのクイーンズ。主人公コニーと知的障害を持つ弟ニックがこの街で最底辺の生活にあえいでいることは容易に察せられるが、彼らの人生のバックグラウンドはほとんど描かれない。ゆえに兄弟が冒頭いきなり銀行強盗を敢行する理由も示されず、あらゆる出来事が“行き当たりばったり”で進行する。大金強奪に失敗したコニーは、逃走中に大ケガを負って逮捕されたニックを奪回するため収容先の病院に潜入するのだが、思いもよらない誤算に見舞われていく。観客はあれこれ社会問題などについて考えることもなく、客席でただニックの衝動的な行動を眺めていれば上々のスリルを味わえる。その意味においては純然たるジャンル映画だ。

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何より驚かされるのは、一歩間違えれば警察のお縄をちょうだいする綱渡りの状況を、ひたすらその場しのぎで切り抜けていくコニーの疾走ぶりだ。口から出まかせを連発して警官や見知らぬ市民を煙に巻きつつ、苦悩やためらいとは無縁の瞬発力を発揮し、次々とぶち当たる大小さまざまなハードルを突破。すべてはコニーの無思慮で愚かな振る舞いが招いた自業自得の悲劇なのだが、ここまで物凄い悪あがきを見せつけられると半ば唖然としながら感嘆し、こう応援せざるをえない。「行けるところまで行っちまえ!」と。

そして、これは都会のカオスを取り込むオールロケのゲリラ撮影が最大限に効果をあげた作品でもある。闇とネオンのコントラストも強烈なストリートの生々しい空気が、パティンソンが必死の形相で体現する崖っぷち感と共振し、まさに全編が筋書きのないアクシデントのように繰り広げられる映像世界にただならぬテンションの切迫感を与えている。それにしても「行けるところまで行っちまえ!」と心の中で叫んでみたものの、なぜ主人公は真夜中の遊園地のファンハウスを経由して、そんなおかしなところに行ってしまうのか。あれよあれよという間にジャンルの定型を突き抜けるその快感を、唯一無二の鈍い輝きとともに体感したい一作である。

高橋諭治

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