劇場公開日 2018年2月10日

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「本当に「切ない恋」ですね」今夜、ロマンス劇場で 悶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本当に「切ない恋」ですね

2022年6月30日
PCから投稿

【鑑賞のきっかけ】
劇場公開時には、あまり興味が湧かず、未鑑賞のままでしたが、現在でも評判が高く、動画配信で視聴可能となっていたので、鑑賞することに。

【率直な感想】
<実は、キーパーソンな、加藤剛さん>
物語が始まると、予告編のように、綾瀬はるかさんが演じる、姫・美雪の登場する映画作品が流れ、やがて、それを観ている、坂口健太郎さんが演じる、牧野助監督の姿が映されます。
でも、それから場面は転換し、現代(映画公開の2018年)に移ります。
入院中の老人が、病室を訪れた看護師に、かつて助監督をしていと述べた後、自分の書いた脚本の原稿用紙を見ながら、「これはある青年の身に起きた不思議な物語だ」と回想が始まります。
つまり、本作品の現在は、2018年であることが分かります。
また、この老人が「牧野さん」と呼ばれているので、牧野助監督の現在の姿だと分かります。
この老人を演じているのが加藤剛さんなのですが、本作品の公開のすぐ後に亡くなっているのですよね。享年80歳とのこと。
さて、回想して戻っていった過去は、「昭和35年」。
西暦ならば、1960年なのですが、2018-1960=58年前の話だということになります。
若き牧野助監督の年齢ははっきり分からないけれど、20代前半と考え、仮に22歳だとすると、22+58=80歳で、加藤剛さんの年齢とぴったり合いますね。
そんなことから、現実の加藤剛さんと重ね合わせてしまいました。
この加藤剛さんの登場シーンは、とても少ないけれど、非常に重要な役どころであることが、物語後半に分かる仕組みになっています。

<物語の後半、驚くべき展開に>
私が本作品を劇場公開時に興味を持てなかったのは、ウディ・アレン監督作品に、「カイロの紫のバラ」(1985年)という作品があって、映画を観ている女性の前に、映画の中の男性が映画を飛び出してきて現われ、恋に落ちるというもの。
これを男女入れ替えただけじゃない、と私は、当時感じてしまったためです。
実際、今回の鑑賞でも、物語の中盤までは、正直なところ、今ひとつの感じを持っていました。
ところが、予告編でも流れるとおり、姫・美雪は、人のぬくもりに触れる、つまり他人と体が触れあうと、この世界から消えてしまう、と牧野助監督に告白。
ここから物語は、恋の行く末がどうなるのか、大変興味深いものに変貌していきます。
そして、ラスト近くになり、驚くべき展開に。
これが、「驚き」だけではなく、「感動」をもたらすもの。
この映画の評判の高さが分かりました。
これは、確かに、「切ない恋」の物語ですね。
看板に偽りなし。

<日本映画への熱き思い>
この作品は、ラブ・ストーリーであると同時に、日本映画への愛が溢れたものとなっています。
物語のほとんどのシーンは、昭和35年、つまり、1960年代なのですが、日本映画はその後、劇場に人が集まらなくなって衰退していきます。
それはテレビの登場でした。
劇場に行かなくたって、沢山のドラマが観られるし、と。
本作品でも、北村一輝さん演ずる売れっ子のスター俳優が、当時普及し始めたテレビにゲスト出演しているシーンが一瞬流れ、この日本映画衰退の予兆を感じさせます。
70年代になると、ハリウッドは、巨額を投じた超大作を次々と発表し、日本でも大ヒット。しかし、アニメを除く、実写版の日本映画はなかなかヒット作が生まれない状況が続きます。
それが、21世紀になるくらいから、日本映画も次第に業績を回復させます。
理由のひとつは何と、あのテレビ局が映画制作に進出してきたこと。
最初は、自局で流しているドラマを「劇場版」と称してヒット作を生み出していましたが、次第に、オリジナル作品も手掛け…実際、本作品の制作にもテレビ局が関与していますね。

業績回復の2つ目の理由は、「シネコン」の普及です。
ひとつの劇場の中に、10スクリーンくらい持っていることで、劇場で上映できる作品数が何倍にも増えました。
因みに、本作品の舞台、ロマンス劇場は、かつての「名画座」です。
新作映画の公開はロードショーと言いますが、これが終了した作品を2本立てで、低料金で上映する、というスタイルの映画館が全国各地にありました。
ロマンス劇場も、2本立てで上映しており、そのうちの一本は実在の映画「女王蜂の怒り」ですが、1958年の作品。
1960年の当時としては、ロードショーを終えて、1~2年が経過し、「名画座」で好評を博していたものと思われます。

このように、日本映画の盛衰が分かるのも、この作品の面白いところです。

【全体評価】
やはり、ラスト近くなって、「切ない恋」の内容が明らかになる部分が秀逸。
作品の中で、観客から忘れ去られていく映画たちも星の数ほど存在する、というナレーションがありましたが、この作品は忘れ去られないと、感じています。

悶
琥珀糖さんのコメント
2022年9月7日

今晩は。
先日は「フレンチアルプス・・・」にありがとうございました。

日本の戦後映画史の浮かぶ素晴らしいレビューですね。
綾瀬はるかがとでも魅力的でしたね。
坂口健太郎の80歳を加藤剛さんが演じてらして、切ない恋の
行く末に涙が溢れました。

琥珀糖
LaLaさんのコメント
2022年7月13日

悶さん(^^)/こんばんは
テレビで鑑賞できました。
レビューはしていません(^▽^;)

「切ない恋」 同感です。
そして、老人となった牧野助監督
加藤剛さんがナースに
話してゆく場面も良かったです。

<日本映画への熱き思い>も
素晴らしいレビューをありがとうございました。

LaLa
みかずきさんのコメント
2022年7月12日

共感ありがとうございます。

お久し振りです。

本作、映画愛に溢れたラブストーリーでしたが、
後半から終盤の展開は感動てきで切なかったです。

あちらのサイトでも、本作が話題になったことがあり、
映画に本屋大賞みたいな賞があれば、間違いなく本作が受賞していたと思います。映画ファンには堪らな作品でした。

では、また共感作で。

-以上-

みかずき