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◆否定と肯定

"事実"を巡る法廷闘争の中で浮かび上がる、人を信じることの難しさと素晴らしさ
  フェイク・ニュースやオルタナティブ・ファクトが流行語になった今年は、「報じられた出来事が事実なのか虚偽なのか」という問題をしばしば考えさせられた。その意味で「否定と肯定」は旬の映画だ。主人公は、アメリカの大学教授デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)。著述をめぐり、イギリス人の歴史学者デビッド・アービング(ティモシー・スポール)から名誉棄損で訴えらえた彼女は、ナチスによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)は無かったというアービングの主張がフェイクであることをイギリスの法廷で証明する必要に迫られる。

  この裁判の争点は、ホロコーストの歴史認識。原告はアービング、被告はデボラという対決の構図だ。が、ドラマは必ずしもこの図式に当てはまらない。柱に据えられたのは、完全アウェーのイギリスで孤立するデボラの葛藤。そして、裁判に挑むデボラが対決するのは、アービングではなく、リチャード・ランプトン(トム・ウィルキンソン、名演!)をはじめとする自分の弁護団なのだ。裁判とドラマの意図的な食い違い――そこに、この映画の妙味がある。

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  実際、裁判の戦術について、デボラと弁護団はぶつかりあう。アメリカ人らしく直球で三振を取りたいデボラは、自分で証言台に立ち、アービングをやりこめたいと考える。かたやイギリス人的にコツコツとアウトを取りに行きたい弁護団は、アービングの主張のでたらめぶりを客観的な証拠の積み重ねで証明する戦法を取ろうとする。そんな彼らと、デボラはどうやって折り合いをつけるのか。彼女がこの裁判で何を学び、直情的な自分をどう変えていくのかを、デビッド・ヘアの脚本は緻密に描き出す。その果てに、人を信じることの難しさと素晴らしさが浮かび上がってくるところが、ヒューマンドラマとしてのこの映画の魅力だ。

  裁判劇としても見ごたえがある。とくに、「虚偽を心から信じている者を嘘つきと呼べるのか?」という裁判内の問題提起は、タイムリーであると同時にタイムレスだと感じた。

(矢崎由紀子)


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