劇場公開日 2017年11月25日

「不世出の天才」シネマ歌舞伎 め組の喧嘩 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0不世出の天才

2020年12月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「勘三郎(18代目)は不世出の天才」なとど言うと、「なに当たりめぇのこと言ってやがんでぃ」ということなのだが、本作を観てますますそう思ったのだから仕方ない。

「こんぴら歌舞伎」じゃあるまいし、江戸時代の芝居小屋のような、この劇場はどこだろう?と思ったら、仮設小屋らしい。
デザインや観客との距離感が、とても良い。
ただ少し狭くて、役者はやりづらそうな場面もある。ラストシーンの舞台上は、すさまじい人口密度であった(笑)。

「喧嘩」がテーマとなると、「ユーモラスな味わいが強みの勘三郎には、いささか荷が重いのでは?」と思った。
実際、本作では、勘三郎はユーモアを完全に封印して、“鳶の親分”をやりきっている。
しかし、そこまでキャラを限定しているにもかかわらず、演技の幅が実に広い。
驚くべきは、強面(こわもて)をやったかと思ったら、スッと力を抜いて柔らかくなるなど、一つの演技をやり切った後に、シームレスに次の演技に移る、その“絶え間ない連続性”である。
大汗かきながら、実に繊細な芝居をする。見得を切る荒事だけが、力の入れどころではないのだ。
こんな細かい演技の推移は、劇場で観ていても分かるまい。勘三郎は、「シネマ歌舞伎」に“あつらえ向き”の役者だ。

脇を固める役者も良い。
妻役の扇雀、四ッ車役の橋之助と九竜山役の片岡亀蔵、喜三郎役の梅玉など、一流の役者が歌舞伎の醍醐味を見せてくれた。

この演目は、江戸後期に起きた事件を題材に、明治期に作られたもののようだが、自分はあまり面白いとは思えなかった。
台詞はややこしくて、時々何を言っているのか分からないし、“附け打ち”と言うのか、やたらバチバチとうるさい。
また、若い衆がたくさん出て走り回る、かなり長く続く乱闘シーンはあまり例を見ないのではないだろうか。

本作の勘三郎は、「歌舞伎における“侠客”とは何か」という問いに対する、一つの完璧かつ、極めてオリジナルな回答を出している。

Imperator