劇場公開日 2017年5月20日

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「幾万幾千のホラーの上に」ジェーン・ドウの解剖 ぺむぺるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0幾万幾千のホラーの上に

2019年6月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

ネオ・ホラーの佳作。
部分的に見ればあまり目新しいところはないのだけれど、これまでのホラー映画にあったさまざまな「怖い」がスタイリッシュにまとめてられていて、全体を見渡すと「新しいホラー」になっている。

中盤までの長々しく、生々しい人体解体は、ある意味「スプラッター」。正直言ってめちゃめちゃグロい。が、あくまで解剖として見ているのでそれほど怖くはない。死体役の女優さんがとてもきれいなのも、気持ち悪くなりすぎないポイント。
脇を固める3体の死体が、ヒタヒタと襲い来るシーンは「モンスター」映画の怖さだ。なかなか正体を表さなかったり、来ると思いきや来なかったり、そこには「Jホラー」的な不気味さもある。なんとなく湿っぽい地下の解剖室(廊下の曲がり角には反射鏡!)という状況設定も、いい味を出している。
真相から結末までもっていくのは「オカルト」趣味な怖さ。キリスト教文化圏の人々にとって、悪魔や魔女は問答無用で怖い存在なのだろう。ホラーの見本市みたいなこの映画で、トリをつとめるに十分な怖さだ。

こうした構成の妙を支えるのは、特殊メイクや舞台美術、音楽といった細部の光り。特に、怪奇現象の前触れとして繰り返し流れるあの音楽がいい。個人的に、良いホラーにはこの「繰り返し流れる音楽」が欠かせないと思う。こういう小道具が効いているのも、この映画の憎いところ。

とはいえ、いまいちなポイントもいくつかあって、オカルトな状況を早々に理解して受け入れる登場人物とか、意外性のまったくない真相とか…、中盤以降はつっかかるところが多かった。ジェーン・ドゥは何者か?という本当のところはよくわからないが、「なんでこんなことが起きるのか」くらいまでは明かされるので、それ以上の興味(たとえば、彼女の本名やどういう人生を送ってきたか、どんな状況でなにをされたかというようなこと)を持てないうえに、彼女の不気味さも半減するという残念な結果になっている。

しかし、こうしたこともこの映画にとってみれば些細なことのように思える。それだけ出来がいい。後続の類似作品は生まれなそう(生まれたところでこの映画の二番煎じにすぎないのは目に見えている)なので、「ホラーの新境地を切り拓いた」とは言い難いが、これまでに登場した幾万幾千のホラーを見事に受け止め、華麗にかわす、作り手たちのクレバーさには心底脱帽する。

ぺむぺる