劇場公開日 2018年6月8日

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羊と鋼の森 : インタビュー

2018年6月7日更新
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山崎賢人、丁寧に“こつこつと”紡いだ「羊と鋼の森」

「焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです」。新米ピアノ調律師の外村直樹に、ベテラン調律師・板鳥宗一郎は、そう言葉をかけた――。宮下奈都氏の人気小説を、山崎賢人の主演で映画化した「羊と鋼の森」が6月8日から公開される。主人公は、生まれ育った北海道のトムラウシ山を飛び出し、調律師として町の楽器店に就職した青年・外村。山崎は、ひたむきに仕事に励む外村に深い共感を寄せ、「ひとつひとつ、こつこつやってみようという感じでした」と撮影を振り返る。(取材・文/編集部)

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2016年本屋大賞、「2016年キノベス!」第1位、「2015年ブランチブックアワード」大賞と3冠を達成した小説を、「orange オレンジ」以来のタッグとなる橋本光二郎監督&主演・山崎で映画化。ピアノ調律師・板鳥(三浦友和)との出会いを機に、調律師の仕事に魅せられた主人公・外村(山崎)が成長していく姿を描く。

山崎は原作小説との出合いを「“音から見えてくる景色”みたいなものがあった」と語る。「調律師という、繊細な題材を扱っていますが、その繊細さが読んでいて苦にならなかった。むしろ『こんな世界があるんだ』とわくわくしました」。同時に、全ての“新米社会人”が共感できる作品でもあり、山崎も「どの職業の人にも当てはまる作品。僕も共感できる部分がたくさんあった。初心に帰る、そして元気が出る本でした」と振り返る。

さらに役の印象を、「外村は年齢も近く、等身大の役」とニッコリ。仕事に奮闘する外村の姿に「仕事をするうえでは、僕もまだまだ新人。20代前半で、これからがんばっていかなければならない」と自らを重ね、「劇中で外村が板鳥さんに言われた言葉は、僕自身にも響いていました」と噛み締める。

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共感、等身大といった言葉が多く出てくるが、外村直樹は決して平凡な青年ではない。山での生活で育まれた豊かな感性を持っているのだ。「外村は、トムラウシという静かな森で育ったので、とても繊細です。音に対しても敏感で、音から森の匂いや景色を感じとる。音と景色がつながっている。そういう部分がある人なんです」

だからこそ、「外村になるまでの道のり」は平坦ではなかった。クランクインの3カ月前から調律学校に通い、日本ピアノ調律師協会会長から調律の基礎を学んだ。さらに山育ちの外村の感覚をつかむため、北海道・美瑛町で2泊3日の調律合宿も決行。「合宿は山のなかで行いました。ペンションから出ると雪景色が広がり、音ひとつないんです。東京にいると絶対に何かの音があるじゃないですか。それがない世界というのを肌で体感しながら、『(外村は)こういう場所で生きてきたんだな』と考えました。合宿中は、なるべく携帯を見ないようにしました。その場所に住んでいると思い、その場所の空気を感じていました」と述懐する。

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外村の心の機微、成長、そして繊細な感性を体現するため、橋本監督とは「『orange オレンジ』の時よりも話し合いましたね」と明かす山崎。監督の演出法を問うと「基本的には『自由にやってみて』と言ってくれました。そのなかで、僕が表現しきれていない部分を微調整してくれるというか。例えば、外村が成長していくなかでの変化。ピアノの調律中に、弦と弦の間から見せる目を『もう少し強めに演じた方がいい』『にらむようにした方が、真剣さが伝わる』と指示してくださいました」と説明する。

撮影時、山崎を導いたのは、橋本監督だけではない。映画のなかでベテラン調律師・板鳥が外村の指針になっていたように、山崎も三浦友和という偉大な先輩に導かれていた。「三浦さんとの最初の撮影が、板鳥さんが外村に『焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです』と言うシーンでした。その時に『これだな』と思い、鳥肌が立った。三浦さんの存在感に圧倒されました」

そうして作り上げた山崎の“外村像”とは、どのようなものだったのか――。映画序盤、外村が板鳥に出会う場面。体育館に佇む山崎は迷子の少年のようで、深く果てしない“調律の森”へと踏み入っていく外村そのものだった。そう伝えると、山崎は「面白い!」と無邪気に笑っていたが、すぐにこんな話をしてくれた。

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「外村は、調律師という仕事に出合うまで、何もやりたいことがなかった。板鳥さんや(先輩調律師の)柳さんには、『トムラウシという環境で育ったことが武器だ』と言われますが、本人はわかっていないんです。むしろ、『自分には何もない』と思っている。だから外村は、調律師という仕事を『ただ好きだから』やっているんです。そんな外村が、調律という深い森の中を彷徨うような感じを、“ふわふわした佇まい”として表現しました」

インタビューの最後、山崎は「自分の仕事にも当てはまる作品」と再び口にした。「どの仕事もそうですが、正解がないものって多いと思う。そんななかで模索するのが、楽しかったりすると思うんです」。そう語る瞳には、小説のなかの外村直樹と同じように、強い光が宿っていた。

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