劇場公開日 2017年6月10日

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「【ある”二つの過ち”が引き起こしてしまった出来事を、アスガー・ファルハディ監督がイランの慣習も絡ませ、哀しくもスリリングなトーンで描き出した作品。】」セールスマン NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【ある”二つの過ち”が引き起こしてしまった出来事を、アスガー・ファルハディ監督がイランの慣習も絡ませ、哀しくもスリリングなトーンで描き出した作品。】

2020年5月10日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

 エマッドは高校教師。美しき妻ラナと劇団で芝居もしている。
芝居の演目は、アーサーミラーの”セールスマンの死”である。
ー何だか、この映画のトーンを表していそうだな・・-

 ある日、二人が住むアパートに”大きなヒビ”が入り、慌てふためき人々はアパートから逃げ出す・・。
ー詳しくは語られないが、無理な宅地造成が原因の様である・・。-

 劇団員の仲間、ババクの紹介で”ある部屋”を紹介され、移り住む二人。
ー”前のような人じゃないでしょうね””文化的な職業に就いている人々だ”という台詞。
 さらに、乗り合いタクシーの車中で、エマッドは隣に座った年配の女性から、席を変わって頂戴と言われる。何かを暗示しているのは明白である。-

 そして、”一つ目の過ち”が起こる。
ラナは自宅のチャイムが鳴った際に、夫と確認せずに鍵を開けてしまう。
 そして、”二つ目の過ち”が起こる。
ー今作が、ミステリー要素をはらんで、ラストまで観客を引き付けるのは、この”二つ目の過ち”の結果のみしか、映し出していない所である。-

 ラナは頭に大怪我をし、病院へ。
その後も、沈んだ顔で、エマッドに独りにしないでくれと言うシーンが複数、映し出される。

 前の住人の”やっていた事”が分かり、エマッドは事情が見えてくる。だが、ラナは警察に行こうとしない・・。
ーイランの慣習が関係しているのだろう・・。ー

 そして、エマッドは残されていたトラックを手掛かりに、犯人を捜し始める・・。

■今作が見応えがある個所 1
 エマッド達の劇団の芝居、”セールスマンの死”の映し出される場面と今作の出来事が絶妙にシンクロしているところ。
ーエマッドが犯人を特定し、追い詰めていくが、実に苦い結末になってしまった後の、セールスマン”ウイリィ”が棺に入れられている葬儀のシーンなどー

■今作が見応えがある個所 2
 エマッドが犯人を追いつめるシーンがスリリングである事と、意外な犯人像。犯人が弱弱しく”そそられてしまった・・”と呟くシーン。

■今作が見応えがある個所 3
 イラン(だけではないが)の慣習を上手く取り入れている所
 ・ラナが警察に行こうとしないシーンや
 ・エマッドが犯人と犯人の家族を合わせようとする、ある意味私刑に近い選択をしようとするシーン

▲微かな救いを感じた箇所
 ・ラナが私刑に近い行為をしようとするエマッドに対し、”許してあげて・・”と言うところ。
 このシーンが無かったら更に、遣り切れなかった・・。

<アスガー・ファルハディ監督は(今作の後、公開した”誰もがそれを知っている”も似たトーンであるが、)人生のふとした瞬間の陥穽を実に苦くも上手く描く監督である。日本でいうイヤミスに近いのかもしれない。>

NOBU