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◆羊の木

"異物"を排除する風潮に、寓話のかたちで果敢な異議申し立てを試みている
  吉田大八監督の映画には独特の透明感と余白がある。余白とは主人公の内面に巣食う得体の知れない感情が吹き溜まっている貯蔵庫のようなもので、それがささいなきっかけで暴発し、ドラマはいきなり極点を迎える見立てだ。山上たつひこ+いがらしみきおの原作のマンガを映画化した本作では、架空の港町・魚深に六人の転入者がやってくる。彼らは全て殺人犯で、国家の極秘プロジェクトにより市が身元引受人となり、十年間の定住を条件に、刑期を縮小されて仮釈放された元受刑者たちである。受刑者同士の接触は厳禁、住民には知らされてはならない。

  こうした一見、ディストピア風SFじみた設定ながら、極めてリアルな手触りを感じさせるのは、受け入れ担当を命じられた市役所職員の月末一(錦戸亮)の奇妙に能天気で明るい存在感によるものだ。常に柔和な笑みを浮かべながら仕事を遂行する錦戸は善良なる凡庸さそのもので、映画に涼やかな風を吹き込んでいる。

  一方で、北村一輝優香市川実日子水澤紳吾田中泯松田龍平らの受刑者たちは、ある者は挙動不審で、ある者はふてぶてしく、ある者はなにものかに怯え、ある者はニンフォマニアック(色情狂)のようであり、それぞれがどこか大いなる空虚、欠落を抱えこんでしまっている。主人公であるはずの錦戸は透明化し、むしろ狂言回しとなって、この六人の内に潜む狂気を静かに発酵させる役割を果たしていると言えようか。

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  小さな町の平穏な日常は、ある日、殴打による殺人事件が起こって一挙に不穏な空気に包まれる。誰が犯人なのか。六人のなかでもっとも影が薄い市川実日子は拾ってきた「羊の木」の絵が描かれた缶をアパートの入り口に掛けている。何度かインサートされるこの不気味な絵はどこか中世の宗教画を思わせるが、魚深の町でも禁忌の神を祀る"のろろ祭り"が行われ、酒乱の水澤紳吾が凶暴さを露わにするなど、それぞれの日常に亀裂が走る。この夜、白装束の男たちが魚深の町を練り歩くシーンは、この映画の中でもっとも禍々しい美しさをたたえており忘れがたい印象を残す。

  映画は魚深に祀られている巨大神"のろろ"の伝説を忠実になぞるような意想外な結末を迎える。仄かな曙光を感じさせるラストは、移民問題をテーマにしたアキ・カウリスマキの「希望のかなた」と後味が似ている。「羊の木」も、"異物"を排除する風潮に、寓話のかたちで果敢な異議申し立てを試みているのだ。

(高崎俊夫)


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