劇場公開日 2017年5月13日

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「最高密度の青色、の意味を考える。」映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5最高密度の青色、の意味を考える。

2017年6月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

観る人それぞれの解釈ができる映画だ。それは原作が詩集なのだから当然だろう。台詞も、どこか詩の朗読のようでもあるし。
原作、最果タヒ。その名でピンときた。最果ては、一(地平線)。その下に、タヒ。つまり、死。だからなのか、言葉のむこうには「死」の影がひそむ。そうなるとたいてい、映画の雰囲気は暗く、湿っぽくなるものだ。たしかに、でてくる人間はほぼ現状の生活を惰性で生きている人たちだった。上昇志向もないし、反骨心をエネルギーにしてもがいているわけでもない。
だけどこの映画はどうも様子が違っていた。
みな、諦めてはいるのだけど、ヤサグレていないのだ。底辺の暮らしの中で、それを人のせいにしていない。だから、小さな幸せさえも嬉しいのだ。

石橋演じる美香には、ややそんなヤサグレ傾向(母の自殺を恨んでいたり、自分はいい女だと意識してる風)が残るが、シンジに触発されるように、自分に正直に生きることの気安さを感じていく。
美香と知り合ったシンジも、不安を感じることがなくなっていく。
お互いがお互いのおかげで心が解放されていく姿が清々しかった。

観終わった後、タイトルの意味を考えた。
そうか、漆黒の夜空はけして、単色の黒ではないんだよな、と。
青の色が幾重にも幾重にも折り重なっている色だ。一番濃い青。
なるほど、人が溢れる都会も、そうか。人はだれも、大きな社会のなかではちっぽけな存在。つまり薄い色でしかない。
だけどその一人一人が集まって、社会が出来上がっているのだな。

栗太郎