劇場公開日 2017年5月13日

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映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ : 映画評論・批評

2017年5月2日更新

2017年5月13日より新宿ピカデリー、ユーロスペースほかにてロードショー

東京を描きながら普遍的な視野を持つ、“反逆する”映画

これはただの恋愛映画ではない。否、むしろ反逆の映画だ。何に反逆しているのか? この重くたれ込めた世界に、見えない圧迫に、常識という足枷に、わけのわからないルールに縛られた連中に。

原作は最果タヒの同名の詩集。そこからインスピレーションを得た石井裕也監督は、その思いを映像化するという、難しくも意欲的な挑戦を果たした。そのために彼は、視聴覚に訴えるあらゆる手段で観客の心に揺さぶりをかける。スプリット•スクリーン、神経を摩耗させる都会の喧噪の不協和音や人々の話し声、ネオンや月の光を浮き立たせる色彩設計。これみよがしのギミックではなく、あくまでキャラクターの心情を代弁する手段として。

看護師をしつつ、夜はガールズバーで働いている美香と、日雇いの工事現場で働く慎二。ふたりに共通するのは、つねに死の近くにいるという感覚と、拭いようのない不安や絶望感を抱え、世の中に対して鎧をまとっていること。そんなふたりが「1000万人も人がいる」東京という街で奇跡的に出会い、反発しながらも心を通わせていく。

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彼らが劇中で触れ合うのはわずか2回だけだ。それも一度は慎二が背中に負うリュックを媒介にして。もう一回は慎二が美香の頭に触れるだけ。抱き合うことも、手を握ることすらもない。にも拘らず、彼らは同じ方角を見つめ、同じ方向に前進する。そこに、どんな言葉よりも強い絆が浮かび上がる。“媚びない”主人公に扮する池松壮亮石橋静河の存在感もまた、この作品に強度を加えている。

興味深いのは、こうした彼らの姿がいまの東京に生きる強烈な息苦しさを映し出したものでありながら、同時に、万人に訴える普遍的な感覚を放っていることだろう。それはこの映画が、「家賃、ガールズバー代、友人の死」といった個人的な問題と共に「シリア、テロリズム、安保法案」といった事柄を雑多に挙げていることにも拠る。もはや都会に生きることの鬱屈というのは、世界のどこでも基本的にはあまり変わらないのではないか、ということを感じさせる点で、本作は近視眼的な日本映画とは隔たる視野の広さをそなえている。

だが、ラストにはささやかな希望を残すことも忘れてはいない。それもまた、この虚無的な世の中に対する監督の反逆と言えるかもしれない。

佐藤久理子

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