劇場公開日 2016年10月7日

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「CIAの基礎知識」ジェイソン・ボーン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0CIAの基礎知識

2016年10月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

原作者ロバート・ラドラムの「Bourne Identity」を読んだときは、あまりの面白さに三部作を一気に通し読みした記憶がある。CIAの本部がラングレーというところにあり、ラングレーがバージニア州にあるといったことを知ったのもその時だった。CIAは職員が数万人もいる巨大な組織で、Agency(エージェンシー)という名がつくだけに、現場工作員はAgent(エージェント)と呼ばれている。本部にいて重要な役割を果たすのはAnalystで、分析官と訳される。トム・クランシーの小説で有名なJack RyanはCIAアナリストだ。
エージェントの主な役割は情報収集だが、電波や電話は常に傍受され、動きも監視されていることを前提として行動する。作戦はオペレーションと呼ばれ、多額の現金が必要になる場合があり、エージェントはそれぞれの才覚で現地通貨を獲得し、秘密の場所に保管する。現地の協力者と現金のことをAsset(資産)と呼び、エージェントが人を殺すときはCompromise(妥協させる)という言葉を使う。

さて、海に投げ出されて記憶を失った第一作が2003年公開だから、13年も経っている。マット・デイモンも随分歳を取った。この間に「Hearafter」の思慮深い静かな男、「We bought a zoo」(幸せへのキセキ)の平凡で控えめだが良識がある意志の強い男、「エリジウム」のマッチョ、「The martian」の不屈の男などを好演しており、ハリウッドを代表する名優のひとりになっている。「The monuments men」(ミケランジェロ・プロジェクト)ではケイト・ブランシェットと大人のからみをしていた。

本作は前作までと同様にCIAに追われる元エージェントの役で、アクション映画ではあるが、よくある熱血の主人公ではなく、ピンチになればなるほど冷静に展開を予測するプロフェッショナルの顔になる。激しいカーチェイスの場面でも驚くほど無表情だ。かと思えば第一作で見せた、子供の前でその父親を殺すことができなかった未熟さを未だに残している。長い間逃げ続けた疲労感を滲ませる、孤独な男の表情がとてもいい。

耶馬英彦