劇場公開日 2016年11月26日

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エヴォリューション : 映画評論・批評

2016年11月22日更新

2016年11月26日よりアップリンク、新宿シネマカリテほかにてロードショー

リンチやクローネンバーグの悪夢を受け継ぎ、「エコール」監督の世界が美しく進化

ルシール・アザリロビック監督の長編デビュー作は、20世紀初頭の小説を映画化した2004年の「エコール」。森深く隔絶された寄宿学校に集められた少女たちが、男性のいない環境でダンスを学んだり自然の中で遊んだりしながら成長する姿を描き、謎めいた別世界を淡々と美しく現出させる映像が印象的だった。

そして、長編第2作となる「エヴォリューション」。主に資金集めが難航したせいで製作に10年を要したというが、前作の設定やイメージを一部引き継いで変奏しつつ、監督自ら手がけたオリジナル脚本で彼女の世界観を発展させている。

今作の舞台は、少年と成人女性だけが住む島。10歳のニコラは、色鮮やかな海生生物が息づく岩礁で死体を目撃し、母親に報告するが取り合ってもらえない。少年たちはみな病院で奇妙な医療行為を施される。女たちは夜の海辺で秘めた営みを繰り返す。ニコラは若い看護師ステラと次第に心を通わせていく。

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スペイン・カナリア諸島のランサローテ島で撮影された街並みは、近代化から取り残されたような風情だが、別録りで加えられた波と風の音が通奏低音となって不穏に響き、この世の場所とは思えない雰囲気を醸し出す。ステラ役のロクサーヌ・デュランは、モディリアーニの肖像画のような独特の顔立ちで不思議な魅力をたたえ、映画の詩情と幻想性に大きく寄与している。

この閉ざされた世界は、ある種の理想郷のようでもあり、悪夢のようでもある。現実にはありえない医療行為、ウジ虫とヘドロに見えるどす黒い料理、腹部を這う異様な生物など、かつてのデビッド・リンチ監督やデビッド・クローネンバーグ監督の作品を彷彿とさせる強烈なビジュアルが想像を刺激する。

この島で起きることは、倫理を超越した人類の進化の可能性のようでもあり、女性だけが“ある役割”を担わされることに対する集合的無意識レベルの復讐心が顕在化した帰結のようでもある。アザリロビック監督は、シャーマンのように「声なき声」を聴いて映像化する能力を進化させているのかもしれない。次回作は10年と待たずに観賞できることを切に望む。

高森郁哉

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