劇場公開日 2016年10月8日

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「暗から明へと転換する少女の心を描いた映画」少女(2016) りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)

4.0暗から明へと転換する少女の心を描いた映画

2016年10月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

湊かなえ原作小説の映画化作品。湊かなえの映画化作品では『告白』『北のカナリアたち』、テレビ化作品では『境遇』『贖罪』と観ているが、センセーショナルさが先立ち、人間の奥底までは描けていないなぁと思い、その後の映画化作品、ドラマ化作品は観ていない。
けれど、本作、どうにも気になる・・・
気になる原因は、監督の三島有紀子。
『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』と、「いいひと」の話ばかり撮ってきた監督が、センセーショナルさが先立つ湊かなえ作品をどのように撮ったのか、それが気になった次第。

地方の女子高に通う由紀(本田翼)と敦子(山本美月)。
由紀はクラスメイトからほとんど相手にされず、敦子はイジメの対象になっている。
クラスでも浮いた存在のふたりは、互いを親友だと思い、交流していた。
そんな、ある日、ひとり黙々と書いていた由紀の小説が何者かに奪われ、こともあろうか、奪われた小説はクラスの国語教師・小倉(児嶋一哉)の名前で雑誌に発表されてしまう・・・

というところから物語が始まる。
まぁ、アヴァンタイトルとして、学園祭か何かの十字架を背景にして女生徒たちが「遺書・・・」と独白する舞台から始まるので、「あ、また、湊かなえ的」と思ってしまうのだが、タイトルが消えたのちは先に書いたような物語が展開される。
「見たい。人が死ぬとこ。」という扇情的な惹句とは裏腹に、かなりじっくりと、由紀と敦子ふたりの少女を描いていくので、先が読めず、画面に見入ってしまった。

映画は早い段階で彼女たちが抱えている負の部分を描き出す。

由紀の家庭には、厳格であるが認知症を患った祖母がおり、幼いころから由紀につらく当たっていたこと。
そのことが原因で、祖母に対して、非道なことを行い、その結果として、哀しい思いをした。
対して、敦子は幼少期から剣道に打ち込み、団体戦での全国大会優勝の経験もあるが、先の県内予選で功を焦ったために敗退し、それがトラウマとなっている。

過去の負の出来事をフラッシュバックで簡潔に描くことで、後半の物語に奥行きを出すことに成功している。

その後、「ひとが死んだのをみたことがある」という転校生・紫織(佐藤玲)が登場することで、ふたりの心の負の部分が拡大し、深くなって、惹句の「見たい。人が死ぬとこ。」となるわけである。

以降、映画は、由紀と敦子の心の負の部分を深く描いていくとともに、複数の人物が入り組んで物語が進んでいく。
そして、湊かなえ特有のイヤな思いのする(惹句が現実のものとなるような)衝撃的な出来事が起こるのであるが、それがふたりの心の闇に光明を見出すという、驚嘆すべき展開となっていく。
この部分の出来事については詳しく書かないが、この暗から明への転換は、脚本としてかなり上手い(ここへ持ってくるまでが上手いのであるが)。

ふたりの少女の物語としては、まぁ、ここで終わってもいいのだけれど、アヴァンタイトルの思わせぶりな舞台劇についても、巧みに収束させていて、なかなかの着地点。

「いいひと」の話ばかり撮ってきた三島監督、今回の映画の方が向いているのではありますまいか。

期待度が低かったこともあるけれども、大満足の一篇でした。

なお、『起終点駅 ターミナル』でも感じたが、本田翼はかなり上手い。
暗から明へと物語を転換させる絶叫は、心底響きましたよ。

りゃんひさ