劇場公開日 2016年6月25日

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日本で一番悪い奴ら : インタビュー

2016年6月24日更新
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綾野剛×白石和彌監督「日本で一番悪い奴ら」で抱いたアウトサイダーへの“シンパシー”

綾野剛が主演し、白石和彌監督が2002年に北海道警察で発覚した不祥事“稲葉事件”を題材に描いた映画「日本で一番悪い奴ら」が、6月25日から公開される。タッグを切望し続けていた2人の胸には、クランクイン前から共通の思いがあった。それは、アウトサイダーとしての主人公・諸星要一への「シンパシー」にほかならなかった。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

公共の安全を守るため道警に奉職したものの、捜査も調書作成もろくにできない諸星(綾野)は、道警随一の敏腕刑事・村井定夫(ピエール瀧)の指南を受ける。「犯人を挙げて点数を稼げ。そのために協力者、S(スパイ)を作れ」。諸星は成果を得たい一心でSを求め、裏社会からの情報を原動力に手柄をあげ続ける。諸星が正義感ゆえにやらせ逮捕、覚せい剤密輸などの悪事に手を染め、堕ちていく過程をエネルギッシュな演出で紡いだ。

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脚本家・池上純哉が、稲葉事件の中心人物である元警部・稲葉圭昭氏が出版した暴露本「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」を持ち寄ったことが、今作の始まりだった。白石監督は稲葉氏の半生を読み、「考えられないほどの面白さ」に度肝を抜かれた。「これは映画になると直感しました。なおかつシンパシーを感じ、稲葉さんの気持ちが手に取るようにわかったんです」と言葉に力を込めると、綾野も大きくうなずいた。2人の口から、稲葉氏への共感がとめどもなくあふれ出る。

白石監督「僕は学生あがりですぐに映画界に入り、そのなかで本当はやってはいけない撮影もしました。しかし映画の歴史は、連綿とそれをやり続けています。助監督の僕らは監督のやりたがっていることを、多少の危険も辞さずに全部やり、場合によっては捕まってもいいという勢いでやっていました。外から見ると異常なことですが、僕らはそうして映画を作ってきたわけです。その点が、すごく稲葉さんとシンクロしたんです」

綾野「つい最近も、別作品で許可が下りないところで撮影しましたが、同じ気持ちでやっています」

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悪を叩き世を良くするために身を投げうち、裏社会の底を這いずり回ることになった稲葉氏。皮肉な生き様が、映画作りに魂を捧げ危険を犯してきた2人の共感を呼び起こし、そのたぎる思いが稲葉氏をモデルとする諸星に反映された。白石監督は、師匠の故若松孝二監督から聞いたエピソードを引き合いにこう明かす。「若松さんが『戒厳令の夜』でプロデューサーをやった時、メガホンをとった山下耕作監督から『高速道路で検問している画がほしい』と。許可がとれるわけがないから、衣装部に警官の服を借りて、当時助監督だった崔洋一さんらと黙ってやったそうなんです(笑)。それに比べたら僕らがやっていることなんてちっぽけな事ですが、もちろん許可がとれるところは全部とるし、私有地で置き換えられるならそうします。でも、どうしてもできない場合がある。だからといって『やっていい』わけではないですが、僕らはそれが必要だと思ってやってきた」。一方の綾野も、「シンパシーを基に、白石組は映画を作っていました」と振り返り、「諸星という男は白石組が産み落としたと思っています。自分ひとりで作ったとはこれっぽっちも思っていない。役者として、生きた実感を得ました」と目を細める。

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諸星の26年間を描出するうえで、ある約束があったという。それは、「人生に台本はなく、翌日に何が起こるかわからない。だから、先々の計算はやめる。現場の目の前のことを全力でやる」ということ。2人は、“瞬間”を生きた撮影に思いを馳せた。

白石監督「登場人物全員、目の前で起きていることに全力で対応し、常にベターな選択をしているんです。それがたまたま間違った方向に行ってしまうという物語。そこには、嘘をつかないようにやっていきました」

綾野「未来予想図がそもそも愚問だったわけです。1日1日、その瞬間を燃え上がるということに、生きがいを感じていました」

脚光を浴びた前作「凶悪」では、白石監督はいともたやすく完遂される蛮行を冷徹な視線で映し出した。しかし瀧をはじめ、協力者・Sに扮する中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄が集結した今作には、どこか汗と笑顔にあふれるスポ根ものの空気が漂っている。現場を「楽しくて仕方がなかった」と語る綾野は、「監督から『高校球児が甲子園を目指す感じで』という演出もありました。青春の真っ最中を謳歌しているようでした」と追想する。さらに「“多国籍”でもありました」といい、「瀧さんとYOUNG DAISくんはミュージシャンで、行雄くんはお笑い芸人。獅童さんは歌舞伎役者で、全く違うエンジンを持っています。共演者が共犯者になれた瞬間しかなく、すごく幸いでした」と敬意を示した。

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インタビューの最後、綾野は手錠に体を預ける諸星をとらえたポスターに目を向けながら、「限りなく純粋であるところが、僕と非常に共通している部分です。諸星をとても愛しています。不謹慎かもしれませんが、この作品を見た後に思ったことは『諸星は幸せだった』。それが何よりも救いでした」と打ち明けた。そして、「構えて見る必要はなく、良いことと悪いこと、嘘と本当は、自分が持つエンジンで見てもらいたい。『笑っていい』という意識で入ると、この作品は強度を増します。ぜひ声を出して笑って見て欲しいです」と観客にメッセージを託した。正義の反対は悪ではなく、また別の正義だ。諸星が体現した正義とその結末を、見届けよう。

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