劇場公開日 2016年3月26日

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「主人公に降りかかる嘘と毒と病は一生続く」リップヴァンウィンクルの花嫁 上田さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0主人公に降りかかる嘘と毒と病は一生続く

2023年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

美しい映像だが、物語には嘘と毒と病が蔓延している。教師いじめという毒に始まり、安室の嘘、マザコンの病……。それと相反して主人公七海は最初から最後まで純粋無垢である。言われたこと、目の前で起きていることをそのまま信じる純粋無垢であると同時に、感情が控えめで全てにおいて受動的、想像力が無く流されやすくもある。中学教師になれる程度の学力と常識を持ち合わせているにも関わらず、とりあえず流れついたホテルの値段が高いのか安いのかさえも調べることなく日々なんとなくそこにいる。こういう人が負のループにハマるんだろうなというのをとても自然に描いている。
負のループは真白との出会いで断ち切られ、楽しい日々が訪れる。奇しくも真白との出会いは安室によってもたらされる。安室は不思議の国の案内人のようだ。そこにいる七海はそれまでとは違い活き活きとしている。しかしそこには自然界の毒と病が存在する。自然界の毒と病によって楽しい日々を奪われた七海は初めて大声を上げて泣き叫ぶ。
ラスト、何かが大きく変わるわけではない。人の本質はあまり変わるものではないので、七海はこれからもなんとなく地味に日々を過ごし、安室に適度に生かされ搾取され続けていくのだろう。友達なんで、という言葉に乗せられて。(友達のいない人間は友達という言葉に乗せられやすい。)
岩井俊仁監督の作品を初めて観たが、じわじわ沁みてくる痛みや病をまとった世界観を美しい映像で見せてくるずるい監督だと思った。(好き)

上田