劇場公開日 2016年1月22日

  • 予告編を見る

「123人の僕が君を愛してる」ビューティー・インサイド ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5123人の僕が君を愛してる

2016年8月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

萌える

へぇ~、韓国映画もこんな作品作れるんだ、というのが率直な印象。
韓国の漬物を代表するキムチ。同じ漬物でも、本作は日本の「浅漬け」のような印象です。
とってもスッキリ、あっさりした口当たりの良さ。
そんな感じなんですね。
本作の背景になっている舞台にしても、とっても洗練されていて、ハイセンス。
おしゃれ感覚あふれる家具と室内空間。
監督はCM畑の出身。カンヌ国際広告祭で受賞歴を持つ、ペク監督です。
どうりでねぇ~、オシャレなわけです。
さて、そんな素敵な舞台設定はできました。
ストーリーです。
主人公の男性。
彼は家具のデザイナーをやっています。
おもに椅子が専門。
かつて僕もインテリアを勉強した経験があります。
たかが「椅子」とバカにしちゃいけませんよ、あなた。
実は世界中のデザイナーが、こぞって歴史に名を残す、名作椅子を作ろうと、日夜しのぎを削っているのですよ。
ぼくは、某美大の図書館に頰かむりして忍び込んだ時、玄関ロビーになんと、あの世界的建築家である、ル・コルビジェの椅子が飾ってあるではありませんか!!
辺りをキョロキョロ見回して、僕はその椅子にそっくり返って座りましたよ!
「ああ、巨匠! コルビジェの椅子に座ってるぅぅぅ~!!」
まあ、病気ですな。変態ですな。
まともな”良い子”は真似しないようにね。
さて、本作の主人公ウジンは、芸術家肌と言うより、職人さんに近い感覚の持ち主。性格は内向的なんですが、いわゆる草食系で「ど・ノーマル」です。
ただ一点を除いてはね……。
彼が他の誰よりもただ一つ、強烈に違う事。
それは一旦眠って目がさめると、姿や性別まで別人になってしまう、という事なのです。
彼ウジンが想いを寄せるのは、アンティーク・インテリアショップで働く「イス」という女性。
 まあ、韓国モノをいくつもご覧になっている方には百も承知でしょう。「これでもか!」という美女でございます。
「イス」にしても、ウジンのデザイナーとしての才能、魅力にひかれ、やがて彼
自身の人としての魅力に惹かれてゆきます。
「目覚めるたびに別人になる」という、ウジンの秘密さえも受け入れたイスなのですが、やがて職場でいろいろと噂が。
「イスは男をとっかえひっかえ、付き合っているらしいよ」
「あんなに男漁りしていたなんて」
「人は見かけによらないわよね……」
などなど。
そりゃそうでしょう。イスはウジンただ一人とお付き合いしているのですが、ウジンは、毎日、容姿も性別さえも変わってしまうのです。本作でウジンが変身する、その人数、なんと「123人」
ウジンが女性の姿になった時、その一人を演じるのが、日本から参加した上野樹里です。
「のだめ」シリーズで韓国でも大人気の彼女。
本作では実に静謐な演技で、ほぼ、目線の移動、まばたき、ささやくようなセリフ回し。その眼差しで一瞬にして「上野樹里の雰囲気」を作り出してしまうのは、さすがの貫禄でした。

本作は「もし~だったら」という、一つの思考実験映画という見方もできるでしょう。
人間は生物学や医学の見地から言えば、絶えず細胞は死滅し、新しい細胞に生まれ変わります。約三ヶ月程度で、全身の細胞は、脳を除いてはほぼ全部、入れ替わってしまうそうです。
三ヶ月前に出会った同一人物は、生物学的には、別人と言ってもいいわけです。
本作の主人公ウジンでは、それが極端に短い「たった1日」でおこってしまうということなのです。

韓国映画は、その独特のどぎつさとアクの強さがある、という偏見を、僕は永らく持っておりました。
そのため映画作品鑑賞もイマイチ敬遠しがちだったのです。
しかし、こういう「浅漬け」のようなサッパリ味の作品なら、僕でも違和感なく鑑賞できました。
また、本作のペク監督の感性というのは、どこか日本の「はかなさ」に通じるものがあると感じました。ペク監督なら日本の「もののあはれ」という感覚を作品に込められるのではないか? と感じました。
たとえば、日本の古都「京都」を舞台に、恋愛ものであるとか、あるいは、世界的クリエイターを目指す若者などを描いてもおもしろいのでは? と思いました。

ユキト@アマミヤ