劇場公開日 2015年11月14日

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「忠臣蔵西洋伝 バルトーク騎士団」ラスト・ナイツ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0忠臣蔵西洋伝 バルトーク騎士団

2022年9月29日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

単純

興奮

『CASSHERN』『GOEMON』でオリジナルや史実を好き勝手脚色し、賛否両論。
発言も物議を呼び、日本映画界から干された紀里谷和明。
そんな彼のハリウッド・デビューとなった2015年の作品。(…を今頃鑑賞)

うん、確かに『忠臣蔵』だね。
『忠臣蔵』をベースに、中世時代のような架空の帝国を舞台にした史劇アクション。
『忠臣蔵』を海外で映画化…と言うと、キアヌ再起不能かと案じられたかのトンデモ作『47RONIN』を思い出す。
紀里谷、またまたやっちまったか…と思いきや、最高とまでは言わないが、思いの外真っ当な作品であった。

前2作は個人的に辟易。何がダメって、“オレって天才”と自惚れているような意識。
CGてんこ盛りのビジュアルだけに偏り、肝心の中身はお粗末。
本人はドラマチックかつ哲学的に語ってるのだろうが、分かりづらく、それがかえって鼻に付く。
しかし本作は自身のスタイルを封印し、真摯にドラマを語っていく。

不当にも反逆罪を言い渡され、死刑となった主君バルトークを自らの手で斬首した騎士団隊長ライデン。
かつて酒に溺れ、荒れていた自分を救ってくれた敬愛者を失った心の喪失は計り知れない。
再び酒に溺れ、主君から与えられた騎士の魂である剣をも手放し、妻にも見限られ、堕ちた日々…。
が、全ては敵の目を欺く芝居だった!
一年かけて、部下が情報を集め、準備や計画を立て、決行の時がきた。
主君の復讐。ライデンの瞳に炎が燃える。
ここら辺、分かっていても奮い立つものがある。
西洋舞台にアレンジされても、『忠臣蔵』のスピリッツは日本人の心に響く。

クライヴ・オーウェンの誇り高き騎士像。
劇中のみならず、撮影時も監督の支えになったというモーガン・フリーマン。
実直な副官、協力者、憎々しい仇の大臣…。
助演キャストで特筆すべきは、伊原剛志。大臣側の騎士団の隊長。
主君の横暴と忠誠に板挟み。闘う際には相手への礼儀を欠かさず。身を落としたライデンをマークし、その境遇に胸を痛める。バルトークの遺族を侮辱した部下を有無をも言わさず処刑。
この漢も名君に仕えていれば…と思わずにいられない。
ライデン以外の騎士の描写はあまりナシ。あってもちょっと。
故にドラマとしては淡白だが、まあ分かり易さはある。
国や人種の垣根を越えたキャスティングは、今まさにハリウッドが求めているもの。

紀里谷作品では文句ナシに一番良い。
が、前2作と比べると成績は大幅ダウン。批評も芳しくない。
作品は常に賛否両論。本作も支持派からは監督の個性が失われたとの声も。
宿命か。紀里谷は賛否両論と闘い続ける。

近大