劇場公開日 2016年11月12日

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「片隅にあったものは」この世界の片隅に aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5片隅にあったものは

2019年8月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:TV地上波

悲しい

楽しい

先日のNHK地上波で再鑑賞。
やはり良い。とても良い。じわりとくる感じ。芭蕉の「岩にしみいる…」という印象で染み込んで来る。

昭和初期の雰囲気もだが、普通の人々の普通の暮らしがあり、そこに戦争がやってきた。ただただ、安穏と暮らしていくはずの日常が、どうしても戦争と言う名の、とらえどころない何かに侵食されていく。それは、水害のように静かに水かさを増し、やがてすべてを呑み込んでいく。精神や感情だけでなく、最後には物理的に、街や周りの人や人体を破壊してゆく。それでも、日常は続いていく。

言ってみれば、当時の当たり前のことが淡々と描かれるだけだが、後半は原爆や内地への攻撃などで悲惨な状況となっているのだが、観ているうちにいつのまにか感受性を下げて、そうした壮絶な画面に対面している自分がいた。当時の人の感性を追体験しているようだ。

私の好きなシーンは、ふだんおとなしい"すず"の感情が爆発するのは、玉音放送の後。はじめて他責としてなじる姿が、当時の日本人の感情ではなかったろうか。物資が無い中、すずが工夫して食事を豊かにし、着るものを華やかにし、少しでも楽しく暮らそうとする姿。この世界の片隅にあったのは、政治や戦争や壮絶な悲劇ではなく、名もなき個人の日常への想いだ。これは昔も今も変わらず、不変で尊いものなのだ。

AMaclean