この世界の片隅に

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劇場公開日:

この世界の片隅に

解説

第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化。第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。能年玲奈から改名したのんが主人公すず役でアニメ映画の声優に初挑戦した。公開後は口コミやSNSで評判が広まり、15週連続で興行ランキングのトップ10入り。第90回キネマ旬報トップテンで「となりのトトロ」以来となるアニメーション作品での1位を獲得するなど高く評価され、第40回日本アカデミー賞でも最優秀アニメーション作品賞を受賞。国外でもフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門で審査員賞を受賞した。

2016年製作/126分/G/日本
配給:東京テアトル
劇場公開日:2016年11月12日

スタッフ・キャスト

監督
原作
こうの史代
脚本
片渕須直
企画
丸山正雄
プロデューサー
真木太郎
製作プロデューサー
松尾亮一郎
製作代表
市村友一
岩田圭介
渡邊耕一
古川博志
山本和男
太田和宏
二宮清隆
河野聡
戸塚源久
桝山寛
大塚学
神部宗之
監督補
浦谷千恵
画面構成
浦谷千恵
キャラクターデザイン
松原秀典
作画監督
松原秀典
美術監督
林孝輔
特殊作画
野村健太
演出補
野村健太
劇中画
四宮義俊
浦谷千恵
こうの史代
林孝輔
色彩設計
坂本いづみ
撮影監督
熊澤祐哉
撮影監修
淡輪雄介
編集
木村佳史子
音響監督
片渕須直
音響効果
柴崎憲治
音楽
コトリンゴ
音楽プロデューサー
佐々木史朗
飯田幸子
アソシエイトプロデューサー
米森裕人
安部幸枝
アシスタントプロデューサー
近藤千昭
アニメーション制作
MAPPA
広島弁監修
栩野幸知
広島弁ガイド収録
新谷真弓
お経読経
上園陽
お経録音
青原さとし
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受賞歴

第40回 日本アカデミー賞(2017年)

受賞

優秀アニメーション作品賞  
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(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

映画レビュー

5.0「描く」ことへのこだわりが革新的な映像表現を生んだ

2016年12月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

楽しい

昭和の戦時の暮らしを描くアニメで、これほど新しい映像体験になるとは!郷愁、お涙頂戴のありがちな作品かと思いきや、当時を題材にした従来のアニメとは一線を画する傑作だ。

主人公すずは、描くことが大好きな女性。親に縁談を決められる時代、女性の自由意志がろくに認められない世界に、自分の存在を刻むかのように、目にしたものを絵に描く。すずが描く風景画は、時にアニメの中の実景を書き換える。その表現手法が新鮮だ。

小気味よい編集テンポも新味に貢献。市井の人々の生活を語るならゆるいペース配分もありだろう。だが、日常を淡々と、ごく短いカットで次々に描写を連ねる手法は、じっくりと共感することを拒むかのよう。しかし、物足りなさがあるからこそ、二度三度と観賞したくなる。

能年玲奈=のんの声の存在感も大きい。すずが「あまちゃん」のヒロインに通じる天然系キャラであることも、感情移入のしやすさに寄与している。

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高森 郁哉

5.0思い出すたびに涙が溢れてくる

2016年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

戦争の悲惨さを訴える従来の映画とはまるで違う。えも言われぬ幸福感、温かさを抱きしめながら、ふとこれはラブレターなのではないかと思った。あの時代を生き、必死に日常を耐え忍んだ人たち。それは観客一人一人にとって決して他人などではなく、誰もが世代をさかのぼればすぐに当人たちへと辿り着く。物心ついた頃には既にシワクチャだったおじいちゃん、おばあちゃんたち。彼らが初々しい少年や少女だった頃のことをこれまで考えたこともなかった。どんな風に成長し、新婚を迎え、戦火の中でどれほど大切なものを失い、そして新たに生まれた生命にどれほど希望を得たのか。すずさんの心の機微はきっと多くの日本人に共通していただろう。私の祖父祖母もとうに亡くなってしまったが、もっと当人から話を聞いておけばよかったと心が苦しくなる。だからこそ、こうしてこの映画へ足が向いてしまう。すずさんに会いたくてたまらなくなる。何度でも、何度でも。

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牛津厚信

5.0観た人に語らせる力の凄まじさよ。

2016年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

知的

泣いた映画がいい映画とは思わないが、この映画は泣かせの演出はほぼないのに文字通り洟をすすりながら観た。自分は映画から入って原作を読んでまた映画を観た。原作ファンが映画の改変について物申したくなるのもわかる気がしたし、監督が原作カットしたプロットをあの手この手で行間やエンドクレジットに仕込んできたこだわりもわかった。

自分は映画単体で傑作だと信じているし、原作ファンもてんでダメなシロモノだったらこんなに反論や検証で盛り上がったりしなかっただろう。自分が思うことは、とにかく素晴らしい原作があり、映像でしかできない表現で映画化し、自分を含めた受け取った観客が平静ではいられないものができたということ。

言葉を尽くしても二時間強に込められたディテールを解析し切ることはできないし、エモーショナルな衝撃を説明することは不可能。ただこれほど繰り返し観て考える価値がある映画もないと断言しておきたい。

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村山章

5.0この作品を世に送り出してくれた全ての人に「ありがとう」

2024年4月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

忘れられない物語がある。その物語を観たときの生の感情は再び味わうことはできない。でも、その物語が映画として残っていることで、観る度にその感情に近づくことができる。何度でも。だから、ありがとうと言いたい。この作品を世に送り出してくれた全ての人に。

2017年1月のある日、私は映画館へ足を運んだ。郊外のショッピングセンターに併設された小さなシネコンだった。この映画を観て何度もクスッと笑った。そして終わる頃には涙が止まらなくなっていた。映画館で泣いたのは生れて初めてだった。パンフレットを買い、原作漫画を買って読んだ。それから2回観に行った。同じ映画を3回も観たのも初めてだった。そして、2回目も3回目もどうしようもないくらい泣いた。どうしてこんなに涙が出るのか自分でもわからなかった。でもそれはとても暖かい涙だった。

この作品は、戦時下に生きたおっとりとした女性「すずさん」を描く。彼女が少女から大人になる過程を、彼女の目を通して見た世界を、ときに彼女の空想を織り交ぜながら描く。そして戦争という特殊な環境下でも、好きな絵を描き、着るもの、食べるものに関心を寄せ、婚家での人間関係に悩み、夫との関係に悩む、どこにでもある「日常」を生きる姿を描く。

野草を使ってまな板をバイオリンのように肩にかけて料理をする場面にほっこりさせられる。砂糖をアリから守るために水に落とすというドジにクスッと笑う。どこまでいっても憎めない、ちょっとぼーっとした天然なお嫁さん。すずさんの愛らしさに惹かれる。

場面は、月日の経過を文字で伝えつつ、刻一刻と進んでいく。じわじわとその影が迫ってきても、どこか実感がなく、遠くの世界の話のように感じていた戦争。それが突然やってきて彼女の幸せな日常を、暴力的に一瞬で破壊する。その破壊の場面は、暗転したスクリーンの中で、間接的に、しかし強烈な表現で描かれる。こんな表現は観たことがない。

日常を破壊されてもなお、痛みを抱えて別の日常を生きなければならない彼女は、兄の死さえ実感できず笑い話にしてしまう自分を「歪んでいる」と言う。そして、原爆投下。終戦。玉音放送を聞いた後に地面に伏して泣いた彼女。彼女は何故こんなに感情を爆発させたのか。なぜ怒り、悔し泣きをしたのか・・・

戦後のすずさんは、戦後の「日常」を生きる。そして新しい家族を創る。少女だった彼女は、たった数年で大人の女性になり、母になる。
呉の街を見下ろすラストカットは、新たな日常を生きていくすずさんたちの未来を感じさせる・・・
悲しくて泣くんじゃない。どんなことがあっても力強く日常を生きるすずさんと周りの人たちに心打たれて涙するのだ。

どうしてこんなに惹かれてしまうのか。
それは、この作品が、この時代にたくさんいたであろう、名もなき市井の人々の生き様に焦点を当て、世界の片隅の一人一人に、かけがえのない日常と物語があったということをまざまざと見せたからだと思う。
そして、「すずさん」という唯一無二の愛すべきキャラクターの存在。彼女を生み出した、原作者こうの史代氏、映像化した片渕監督、声で命を吹き込んだ「のん」。
リアリティに拘りながらも淡く、やさしいタッチの絵。ささやくようにやさしく歌うコトリンゴの声。この作品の世界観を表現するために、なくてはならない要素に携わった人々の、この映画を届けたいという、並々ならぬ想いが、じんわりと伝わってくるのだ。

最後に。
この作品は、反戦映画ではないと私は考えている。
しかし、戦争が、長い時間をかけて徐々に日常に入り込み、突然牙を剥く性質を持っていることを忘れてはならない。そして、日常が、どれだけかけがえのないものであるかを、忘れてはならない。そう思う。

これからも、何度も観て、何度も涙するであろう、宝物のような作品である。

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TS
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